男女問わず、相手から「好意を持たれている」と勘違いしたことがある人は少なくない。
もちろん、そこから恋愛に発展する場合もあるが、ほとんどは失敗する。ところが、その勘違いをこじらせてしまう人もいる。
たとえば、13歳以上の相手に無理やり抱きついたり、同意がないのにキスしたり・・・。こんな行為は罪に問われないのか。もし問われるとしたらどんな罪になるのか。
刑事弁護にくわしい鐘ケ江啓司弁護士に聞いた。
●強制わいせつ罪や迷惑防止条例違反、暴行罪にあたる可能性
このような問題は、簡単なようで、実は結構難しい内容です。関係してくる犯罪は3つあります。(1)強制わいせつ罪、(2)各都道府県の迷惑行為防止条例における「卑わいな言動」規制、(3)暴行罪です。
やや不正確にはなりますが、ざっくり説明をすると、暴行または脅迫を用いて、わいせつな行為をすれば、強制わいせつ罪です。
公共の場所等で正当な理由なく、卑わいな言動をすれば、都道府県の迷惑行為防止条例違反です。
性的な意味がなくても、身体的苦痛を惹起する程度の不法な有形力の行使をすれば、暴行罪です。
どれに当てはまるかの判断は、具体的状況を踏まえておこなわれます。実務上は、具体的な事実関係を聴取したうえで、これらの罪に該当するか否かを判断されます。
●わいせつな行為といえるかどうか
3つの犯罪類型のうち、もっとも重い罪にあたるのが、強制わいせつ罪です(6カ月以上10年以下の懲役)。
強制わいせつ罪の「暴行または脅迫を用いて」については、被害者の意思に反して、そのわいせつ行為をおこなうのに必要な程度の暴行または脅迫であれば足りるとされています(より強度の暴行または脅迫を必要とする学説もあります)。
いきなり性器を触るなど、暴行自体がわいせつな行為である場合も成立するとされています。
そこで、「わいせつな行為」といえるかどうかが、一番のポイントになります。
この「わいせつな行為」の判断について、最高裁の判例(最大判平成29年11月29日)からすると、強制性交罪に連なる行為のように、直ちにわいせつな行為と評価できる行為でない場合は、その行為の性的性質の有無程度や、具体的状況を総合考慮したうえで判断する必要があるということです。
一方、迷惑行為防止条例の「卑わいな言動」というのは、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語または動作と解されており、わいせつな行為より幅広い概念です。 以上を踏まえて、ケースごとに説明していきます。
●相手に無理やり抱きつくと・・・
まず、相手に無理やり抱きついたケースを考えてみます。
強制わいせつ罪、迷惑行為防止条例違反、暴行罪が考えられます。
抱きつくという行為は、それだけでは「わいせつな行為」とされる事例は多くないでしょう。暴行罪か、公共の場所等においておこなわれた場合には、迷惑防止条例違反とされるケースが多いと考えられます。ただし、強制わいせつ目的で抱きついたけれども被害者に逃げられたといった場合は、強制わいせつ未遂になります。
実務上、電車の中で着衣の上から臀部(おしり)等を撫でる行為は、執拗なものでない限り、迷惑行為防止条例違反で立件されています。
●同意のないキスは「強制わいせつ罪」にあたるケースも
それでは、同意のないキスはどうでしょうか。キスも、強制わいせつ罪、迷惑行為防止条例違反、暴行罪が考えられます。
キスについては、強制わいせつ罪の成立を認めた裁判例が多数存在します。同性間でも成立します(大阪地判昭和43年2月6日判例タイムズ221号237頁)。
ほっぺたに対するキスは、親愛の情を込めておこなわれることもあり、それだけでわいせつな行為とされる事例は多くないと思います。
ただし、飲酒のうえ、顔見知り程度の被害者がアパートに戻って来るのを待ちかまえ、いきなり抱き寄せて接吻しようとした行為に、強制わいせつ未遂を認めた裁判例もあります(東京地判昭和56年4月30日)
手をおさえるなど、強制力がない(暴行や脅迫ない)場合は、仮に、相手の内心は不本意であっても、強制わいせつ罪は成立しません。ただし、たとえば、隙をついて突然キスしたといった場合は、強制わいせつが成立する可能性があります。また、酔っ払って寝ている女性にキスすれば、準強制わいせつ罪が成立する可能性があります(刑法178条)。
これらの犯罪の成立には、故意が必要になりますので、本人が、被害者が承諾していると誤信していたのであれば、これらの犯罪は成立しません(理論上は、承諾していても迷惑行為防止条例違反は成立する余地があります)。
とはいえ、本人が「承諾していると思った」と言えば、犯罪が成立しなくなるといったものではなく、当時の状況やそれまでの関係等を踏まえて、誤信したことに合理的根拠があるかどうかが問われます。
●精神科医や弁護士に相談を
裁判例をみていると、通りすがりの女性に対して、声をかけてナンパした上で、強引に抱きつくとか、キスをするといったケースで、承諾があったとか、承諾があったと誤信していたとか主張している事案が散見されます。こういった弁解は、通ることがまったくないわけではないですが、通常は認められません。
また、仮に犯罪が成立しない場合であっても、不本意な性的接触を強いられたということで慰謝料請求が認められる余地は十分にあります。つまり、表沙汰になれば、厳しい責任を問われるということです。
ということで、こういうことは避けましょうというのが教訓になるのですが、折角回答の機会をいただいたので、この記事で述べておきたいことがあります。
法律上の取り扱いは、すでに述べたとおりですが、このような犯罪行為を軽く見る人がいます。それは、このような犯罪行為を繰り返しても、被害者から警察に届出がなかったり、証拠不十分として刑事事件として立件されなかったり、ということで「成功体験」を積み重ねている人です。
そのため、さらに同様の行為を繰り返すといった事例が見られます。これは、痴漢事件や盗撮事件、万引き事件などでも見られる傾向です。個人的には、これらの犯罪はごく一部の人が繰り返しているのではないかと考えています。
しかし、犯罪行為は繰り返すうちに、いずれは発覚します。犯罪行為が発覚すれば、家族や職場などの身近な人の信頼を失い、回復不可能な損害が生じるだけでなく、報道されたり、前科がついたりするなどの社会的制裁も当然あります。
そして、発覚したときには、すでにその犯罪行為に対する依存が進んでおり、自分で止めたくても止められないという状況になっていることがあります。そうなってからでは、遅いです。
この記事を読まれた方で、心当たりがある方は、新たな被害者を出さないためにも、精神科医のカウンセリングを受けてください。また、自首したいという気持ちがあれば、地元の信頼できそうな弁護士に相談してください。
精神科医にも、弁護士にも守秘義務がありますので秘密は守られます。1人で抱え込まないでください。