イギリスのロックバンド「Queen(クイーン)」の伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』が1月、ゴールデン・グローブ賞で2冠を達成した。日本での興行収入も順調に伸びており、往年のファンからも好評のようだ。
そこで思い出してほしいのが、「女王様」の存在だ。正体は「爆風スランプ」のパッパラー河合さん。主に洋楽を日本語の直訳で歌い、1990年代半ばに人気を集めた。
アニメ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の初代OP曲(ベンチャーズ『Diamond Head』のメロディ)といえば、知っている人も多いかもしれない。
女王様のメドレー『女王様物語』(1996)では、クイーンの『Bohemian Rhapsody』から始まり、『We Will Rock You』、『We are the champions』など、代表曲をつなげている。
その歌詞は「母さん ルルルル」「自転車 自転車」「彼女は殺し屋 女王」といった具合。『We are the champions』では、「我ら横綱っす 友達よ 千秋楽まで闘おう」と実に上手いこと訳してある(いずれも原曲の作詞:フレディ・マーキュリー、訳詞:S中野)。
●JASRACは翻訳の権利を管理していない
90年代半ばは、ディープ・パープルなどを直訳で歌った「王様」をきっかけに、「直訳ロック」が流行。マドンナを歌う「王女様」、ビージーズの「王子様」なども登場し、原曲の売上にも寄与した。
しかしながら、海外の曲だからといって、勝手に訳して販売してよいわけではない。原曲の歌詞やメロディは、著作権によって保護されているからだ。
著作権にくわしい高木啓成弁護士は、次のように指摘する。
「楽曲を利用する場合、一般的には、音楽著作権を管理している著作権管理事業者(JASRACやNexTone)に申請すれば、許諾を得ることができます。
しかし、歌詞を『翻訳』したり、楽曲を『編曲』(カバー)することについては、JASRACなどに申請しても許諾を得ることはできません。
なぜなら、歌詞の『翻訳』や楽曲の『編曲』は、著作権のひとつである『翻案権(翻訳権・編曲権)』(著作権法第27条)という権利を処理する必要がありますが、JASRACなどは、『翻案権』を管理していないからです」
たしかに、JASRACのHPには、編曲、替歌、翻訳などについて「音楽出版者などの著作権者から、直接、許諾を得ていただくことになります」と表記されている。
●音楽出版社という存在
では、直訳ロックのCDを出すためには、どういう手続が必要なのだろうか。
「この場合、元の権利者から許諾を得る必要があります。音楽ビジネスでは、(1)作詞者・作曲者が音楽出版社に楽曲の著作権を譲渡し、さらに、(2)音楽出版社がJASRACなどの著作権管理事業者に管理を委託するという流れを取っています。
音楽出版社とは、JASRACなどが管理していない『翻案権』などの権利を管理したり、楽曲のプロモーションを行う会社です。
一般的には、音楽出版社が『翻案権』を管理していますので、翻訳や編曲を希望する場合、その楽曲を管理している音楽出版社に申請する必要があります」
では、クイーンなどの場合はどうなっているのだろう。
「音楽出版社は、JASRACのウェブサイトなどから確認することができます。
たとえば、クイーンの『伝説のチャンピオン』(We are the champions)の場合、『QUEEN MUSIC LTD』(オリジナル・パブリッシャー。「OP」と呼ばれます)という海外の音楽出版社が管理しており、日本では『イーエムアイ音楽出版』(サブ・パブリッシャー。「SP」と呼ばれます)が窓口になっています。
ですので、利用者は、『イーエムアイ音楽出版』に許諾を求めることになります。
そして、許諾を求められた『イーエムアイ音楽出版』経由で、本国の『QUEEN MUSIC LTD』が、著作者本人である『MERCURY FREDERICK』(フレディ・マーキュリー)の遺族などの意向を確認し、許諾を出すかどうか判断することになります」
直訳ロックを出すにも、色々な手続を踏まないといけないようだ。しかも、営利・非営利を問わず、著作権者から「翻訳」の許諾をとる必要があるとのこと。
なお、これはあくまで翻訳・カバーそれ自体の話であって、翻訳・カバーした楽曲をライブで演奏したり、CDにして販売したりする場合は、JASRACなどに申請する必要がある。著作権の「演奏権」や「複製権」の問題になるためだ。