3月は卒園や卒業にともなう謝恩会のシーズンです。謝恩会は学生や保護者が感謝の気持ちを込めて開くものですが、学校によっては高額なパーティーが慣例化しているようです。そんな謝恩会によくみられるトラブルが、「強制参加」や不参加時の「強制徴収」。弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも相談が複数寄せられています。
ある投稿者は、卒業式後の謝恩会について、出欠の意思確認をされることもなく、全員参加が前提と説明されました。費用が1万5000円もかかり、生活費用はすべて奨学金でやりくりしており、苦しい状況の中で参加する意思はないことを伝えたものの、「前から分かっていたことだからそれは理由として通らない」として、欠席の場合も費用を一部負担するようにと言われたそうです。
また、別の投稿者は「大学の謝恩会の参加費が1万円で高かったので、私は欠席の連絡をしました。数日後、出席者が予定よりも少なかったため先生に渡す花束代が足りなく、欠席者からも1000円を徴収したいと言われ、結局全員から強制的に1000円を徴収すると決定されました」といい、本当に負担義務があるのか疑問を呈していました。
謝恩会への強制参加や参加費の強制徴収に法的な拘束力はあるのでしょうか。林朋寛弁護士に聞きました。
●「参加強制」は法的根拠が希薄
謝恩会の「強制参加」は法的拘束力がありますか?
「『強制参加』や『法的拘束力』の厳密な定義はともかく、謝恩会の『強制参加』に何らかの『法的拘束力』のようなものは無いでしょう。『謝恩会』のような行事に出席を強制されるような法令は見当たりませんし、他人の意思に反して一定の時間・場所に拘束するようなことを法律に基づかずに直接的に強制することもできません。
契約に基づいて参加を強制すると考えるのも難しいと思います。謝恩会は、卒業生や保護者が教員に感謝を示す会のことです。ですから、謝恩会の主催者は、国公立でも私立でも、『感謝される』立場の学校側ではないでしょう。
となると、学校側が保護者や卒業生に『謝恩会』への参加を求めると考えるのはおかしいです。したがって、学校側と保護者あるいは生徒との間の契約の内容に、『謝恩会』に出席するということが含まれているというのは考え難いです。
また、『謝恩会』の参加まで教育の一環だという学校があったとしても、卒業した以上は、学校の指導に服する関係は終了しているといえるでしょう。PTAとか謝恩会実行委員会のような任意団体が主催の場合、『謝恩会』に参加する契約が一方的あるいは自動的に締結されているという状況も想定しがたいと思います。
『強制参加』を主張する人がいるとしても、その主張の法的根拠は薄弱でしょう。イベント参加を押し付けたい人、全員参加の体裁を保ちたい人というような『迷惑な人』はどこにでもいますから、やっかいですね」
●アカハラの一部として認められる可能性も
不参加の場合の「強制徴収」にも問題がありますか?
「法的根拠が見いだしがたい『強制徴収』が押し付けられること自体が問題でしょう。『強制徴収』を主張する人に、その法的根拠を教えてもらいたいものです。法的根拠なく徴収された金銭は、不当利得として返還請求することができそうです。ただし、債務がないことを知って払った場合は原則として返還請求ができません。
徴収の際に脅したとか騙したという場合は、実際問題として警察で立件されるかはともかく、『恐喝罪』や『詐欺罪』に該当するかもしれません」
強制参加や強制徴収はアカデミック・ハラスメント(アカハラ)になる可能性はありますか?
「強制参加や強制徴収は、アカハラの一部として認められる可能性はあります。アカハラの意味は論者によって違うようです。それでも、『大学や研究施設での上下関係に基づく嫌がらせ』の態様の一つとして強制参加や強制徴収はあり得ると思います。
同調圧力に基づくものにせよ、研究室等の上下関係に基づくものにせよ、参加したくないものには参加しない、払う筋のないものには払わないという意思を個々人がしっかり持つのが大事でしょう。アカハラなどの場合は、大学の相談窓口等や弁護士に相談することもお勧めします」