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テレビ通販は「世界最大のレンタルショップ」、着用後に返品する「ワードロービング」に打つ手なく
写真はイメージです(kou/PIXTA)

テレビ通販は「世界最大のレンタルショップ」、着用後に返品する「ワードロービング」に打つ手なく

通販や一般の店舗などを含む小売業界で、返品の制度を悪用する客が存在するという。実際にテレビ通販の業界内で「困った客がいる」という声が上がっている。商品を買って実際に使用した後に返品。最初から買う気はなく、商品をレンタル代わりに使用していると思われる人々が存在するという。米国では「ワードロービング」と呼ばれ、「返品詐欺」の一種とされている。日本でも同種の行為が行われているものの排除は簡単ではない。特にテレビ通販会社では、積極的に排除に動こうとしない事情もある。その結果、倫理観に欠けると思われる人の「やり得」状態が続く。テレビ通販関係者に話を聞いた。(ジャーナリスト・松田隆)

●「1度使って返品」の繰り返し

テレビ通販は、販売する主体の違いで3つの形態がある。

1)通販専門放送局

2)テレビ局通販

3)テレショッパー

1)は「ショップチャンネル」と「QVC」で通販番組の放送局、2)は主にキー局の関連会社が行う(日本テレビは事業局)。3)はテレビ局から放送枠を買って通販番組を放送するもので「ジャパネットたかた」などが該当する。

メーカーが商品をつくり、問屋を介して通販会社に納品(販売委託)するのが基本構造。長年、問屋としてテレビ通販に携わり、自身もネット通販会社の取締役のA氏は説明する。

「卒業式や入学式のシーズンになると商品の注文を入れ、返品の期限になる前に決まって返品するという方が一定数いらっしゃいます。それもほぼ毎年です。多いのは真珠のネックレスとか、ブラックフォーマルのドレス。おそらく年の近い兄弟姉妹がいて、毎年のように必要になるのではないかと話しています」。

問題は一度使われた商品は、新品として再度、販売することが難しい点にある。ネックレスは傷がなければ新たに包装するなどして再販が可能だが、それでも経費はかかる。ドレスは通常の試着程度なら問題ないが、香水の匂いがついたり、型が崩れたりした場合は再度売るのは難しい。

メーカーとして通販会社に商品を提供していたB氏は「ドレスより売るのが難しいのは靴です。一度履くと底が減りますから、返品されたら捨てるしかありません。」と言う。返品は基本的にメーカーに戻すが、一度履いた靴などは通販会社が破損品として買い取るという。つまり通販会社の損失である。

買う気もないのに注文し、使って返品し損害を与える行為は米国では「ワードロービング(wardrobing)」と呼ばれ、返品詐欺(return fraud)の一種に分類される。wardrobeは洋服箪笥のことだから「タンス代わりにすること」程度の意味だろう。

全米小売業連盟(NRF)のHP上のレポートに以下のような記述がある。「(返品)詐欺被害はほとんどすべての小売業者が経験し、盗品に関する商品の詐欺は95%が経験している。・・ワードロービング、つまり典型例としてパーティー用のドレス、スーパーボウルを見るための大画面テレビを購入し使用後に返品するといった手法であるが、それは62%が経験済み」(Return fraud cost 9.1 billion in 2013=J.Craig Shearman)。返品詐欺は全米で年間91億ドル(約1兆192億円)の損失を小売業者に与えるとしている。

●通販ならではの事情

このような行為は日本では犯罪になるだろうか。該当するとしたら詐欺罪(刑法246条1項)であろう。もっとも「可能性がある」ということで、実際に検挙され有罪となるかは別の話である。

こうした問題が発生するのは、テレビ通販ならではの事情も関係している。

(1)返品制度

(2)返品を前提とした販売戦略

(3)調査に時間と費用

(4)ワードロービングをする人は少数

(1)本来テレビ通販はクーリングオフの対象外。しかし、例えばQVCは商品到着後30日以内に返送すれば良く、ほとんどの会社が返品を認めている。仮に返品を認めなければ「売れないでしょう。返品できないと、消費者は買わないと思います」(B氏)。百貨店では試着できるが、テレビ通販ではできない。返品を認めないことは、洋服なら「試着せずに買ってください」と同義。そう考えるとテレビ通販が返品を認めるのは販売方法の性質上、やむを得ない。

(2)B氏は「ファッションであればオンエア後、売れた分の30%ぐらいが当日キャンセルされます。残り70%が実際に発送され、後日、その30%が戻ってきます。つまり実際に売れるのは最初に売れた数のおよそ半分。そのため半分しか売れなくても利益を出せるように、原価率20%程度の価格設定がされます」と事情を明かす。

つまり、最初から低くない返品率を計算に入れた販売戦略を立てており、ワードロービングが紛れ込んでくる可能性は排除できない前提に立つ。

(3)仮に排除しようと考えると追跡調査等で多額の費用が発生し、かつ、できることは該当者からの注文を受けないという程度。それなら、わざわざ調査することはないと考えるのが通常の思考法である。

(4)A氏、B氏ともワードロービングと思われる人は全体の1%を切り「コンマ、数%でしょう」と言う。少数のため大勢に影響はないと考えられている。

こうした事情から、一部の人の倫理観に欠ける行動が野放しになっている。B氏は「仲間内で冗談めかして『テレビ通販は世界最大のレンタルショップ』と言ってます」と苦笑する。

一方、A氏は腹立たしげな様子でこう語った。「アメリカでは多いとは聞きますが、日本にも出てきたということでしょう。そういう人はお客様の範疇に入りません。お金を払ってくれた人、結果、気に入らなくて返したという方までがお客様。最初からレンタル代わりにする人はお客様ではありません」。

個々の消費者の倫理観に期待するしかない現実に、問題の根の深さが感じられる。

【プロフィール】

松田隆(まつだ・たかし)

1961年、埼玉県生まれ。青山学院大学大学院法務研究科卒業。日刊スポーツ新聞社に29年余勤務した後、フリーランスに転身。主な作品に「奪われた旭日旗」(月刊Voice 2017年7月号)。

ジャーナリスト松田隆 公式サイト:http://t-matsuda14.com/

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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