銀行に行かなくても振り込みや振替ができる「インターネットバンキング」で、ID・パスワードを盗まれて、預金を不正送金される被害が増えている。
報道によると、被害は今年1月~6月で210件、金額は約2億200万円にものぼるという。数字を取りまとめた警察庁は、年間被害額が約3億円と過去最悪だった2011年を上回るペースとして、注意を呼びかけている。大半のケースでは、預金者のパソコンが、メールに添付されたウィルスに感染し、IDやパスワードが盗まれたことが原因だという。
銀行預金がいつの間にかなくなっていたとしたら、被害者のショックは計り知れない。このようなケースでは、被害者が「消えた預金」を取り戻すことは可能なのだろうか。資産に関する法律にくわしい高島秀行弁護士に聞いた。
●預金が戻るかどうかは「IDやパスワードの管理」しだい
「銀行預金は、通称『預金者保護法』と呼ばれる法律で守られています。この法律では、キャッシュカードを盗まれたり、偽造されたりして預金が引き出されてしまったケースについては、損害を金融機関が負担します。つまり、預金者は『消えた預金』の払い戻しを銀行に請求できます。
しかしこの法律は、インターネットバンキングには適用されません。法律上は、インターネットバンキングで引き出されてしまうと、預金は保護されないということになりそうです」
――被害者は泣き寝入りするしかない?
「いいえ、インターネットバンキングについては、全国銀行協会が自主的な取り決めで保護しています。条件付きではありますが、インターネットバンキングでIDやパスワードを盗まれて預金を引き出されてしまっても、銀行に払い戻しを請求できることになります。なお、主要な銀行は全て全国銀行協会に加盟しています」
――その「条件」とは?
「預金が保護されるのは『預金者がインターネットバンキングのID・パスワードを、他人に悟られないよう管理していた場合』に限られています。
つまり、預金者のID・パスワードの管理方法によっては、補償される額が全額でなく、75%に減額されたり、0%になったりしてしまうのです」
――具体的には、どんな管理方法だとダメ?
「IDやパスワードを他人に教えた場合は論外ですが、たとえばパスワードを住所、氏名、生年月日、車のナンバーなどと同様にしていた場合は、管理上の過失があるとして、払い戻し額を減らされる可能性があります」
――それでは、コンピューターウィルスに感染した場合は?
「ウイルス感染によるID・パスワードの流出は、銀行協会が示している他の例からすると、一般的には管理上の過失とは認められないとは思います。
しかし、ウイルスの感染原因が、明らかに怪しいメールの開封や怪しいサイトへのアクセスによる場合には、ID・パスワードの管理上の過失が認められる可能性が出て来ますので、気を付けた方が良いと思います」
ID・パスワードの管理しだいで、そこまでの差が出る――。便利な日常生活を平穏に送るためには、デジタル分野のリテラシーが、すでに不可欠となっているといえそうだ。