SNSに当時高校3年だった男子生徒(18)を中傷する書き込みをしたとして、滋賀県警は1月31日、名誉毀損の疑いで、東京都文京区の19歳の少年を逮捕した。
報道によると、逮捕容疑は、2015年7月から2016年9月までの間、SNSに「様々な女ユーザーに迷惑行為を行い、最終的にはそんなことをやっていないと逃げ惑っている」などと、男性を中傷する書き込みをした疑い。少年は容疑を認めているという。
男子生徒は滋賀県内の高校生で、2016年9月に自殺しているのが見つかった。遺族によると、高校生はSNS上での書き込みに悩んでいたという。
名誉毀損の容疑で逮捕されるケースは珍しいとも思えるが、背景にはどのような理由が考えられるのだろうか。ネット上の誹謗中傷の問題に詳しい清水陽平弁護士に聞いた。
●ネットの誹謗中傷「被害者の多くは、心身に不調をきたし、辛い思いをしている」
「報道されるのは逮捕されるケースばかりなので、『名誉毀損でも逮捕される』と考えている人が多いかもしれませんが、実際には逮捕されるケースは少ないというのが実感です。
私は、しばしば名誉毀損での告訴事件を取り扱いますが、告訴が受理されても逮捕はされないというのが通常です。自分の扱った事件では、逮捕された例は1件しかありません」
清水弁護士はこのように述べる。なぜ、逮捕されるケースが少ないのか。
「そもそも、逮捕は、原則的には令状がなければ行うことができず、逃亡や罪証隠滅のおそれが必要とされています。
重たい罪であればあるほど、その罪を負うことがないよう罪証隠滅をしたり逃亡したりする動機が生まれやすいといえますが、名誉毀損罪の法定刑は『3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金』であり、重たい罪とは必ずしも言えません。
実務上も、初犯の場合には、よほど態様が悪質であるとか反省がないといった事情がなければ、起訴猶予にされることが多いように思われます。
したがって、名誉毀損罪については、罪証隠滅や逃亡までするおそれは、一般論としては低いと言うことができます」
今回のケースでは、なぜ逮捕まで至ったと考えられるのか。
「本件では、自殺という重大な結果が生じてしまっていますが、このことは逮捕に影響していると考えられます。報道によると容疑を認めているということで罪証隠滅のおそれは低いといえるのでしょうが、重大な結果が生じていれば、逃亡のおそれは高くなるといえます。
また、被疑者が自殺する危惧がある場合、それを防止するために逮捕するということもあります(自殺すれば『本人』という証拠が隠滅されることになり、また、逃亡に当たるとも評価できます)。
本件では被疑者が少年ということもあり、精神的な未熟さ等を考慮して、自殺防止という観点で逮捕した可能性もあるかもしれません。
『ネット中傷で自殺なんて…』と思う方は、実は少なくないのではないかと思います。これは『たかがネットのことでしょ』という意識がどこかにあるからだと思いますが、それは大きな間違いです。被害者の多くは、本当に心身に不調をきたし、辛い思いをしています。
自分が同じ被害に遭ったらどうなるのかということを考えた行動をしてもらいたいと思っています」