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展覧会でつきまとい、筆を折る作家も…ギャラリーストーカー被害、画廊が対策乗り出す
千葉市の企画画廊「くじらのほね」(2021年12月、弁護士ドットコム撮影)

展覧会でつきまとい、筆を折る作家も…ギャラリーストーカー被害、画廊が対策乗り出す

ギャラリーで展覧会を開いている作家を食事に誘ったり、つきまとったりする「ギャラリーストーカー」が近年、問題となっている。しかし、ストーキングやハラスメントを受けてもフリーランスという立場のために、泣き寝入りする作家も少なくない。

そうした中、作家をギャラリーストーカーから守るための取り組みを始めた画廊がある。

2020年10月、千葉市にオープンした企画画廊「くじらのほね」だ。オープンに先立ち、「作家さんにプライベートなお誘いをする」「作家さんに執拗に連絡先を尋ねる」などの迷惑行為を禁止することをツイッターで公表した。

「作家さんを守ることは画廊の責任です」と話すのは、「くじらのほね」オーナー、飯田未来子さん。こうした対策に至った経緯を聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●「在廊するのが怖い」という作家の声

飯田さんが「くじらのほね」をオープンしたのは、2020年10月。その準備中、作家たちと話をしているうちに、気になったことがあったという。

「何人かの作家さんから、画廊にいる(在廊)ときがすごく不安だという声があったんです。私はもともと美術業界にいたわけではないので、最初はピンと来てなかったのですが…」

飯田さんが詳しく聞くと、作家たちはさまざまな被害にあっていることがわかった。

「作品を買ったんだから、食事に付き合え」とつきまとわれたり、批評といって暴言を吐かれたり。画廊の外でも、SNSで大量のメッセージを送られる。いわゆる、「ギャラリーストーカー」と呼ばれる被害だ。

「過去に嫌な思いをした作家さんに話を聞いていくと、共通するのがギャラリー側が何もしてくれなかったということでした。貸し画廊の場合は、どうしても作家さんが主催者になってしまうので、オーナーが不在のこともあります。

ただ、企画画廊のケースでも、ギャラリーのオーナーがそのお客さんを許していたら、作家さんが追い出すことはできません。悪質なケースだと、作品を売るためにお客さんと食事してこいというギャラリーもあったようです」

飯田さんは美術業界に入る前には小売業界で働き、店長をつとめた経験もあった。

「お店でも、お客さんがスタッフに絡んでくるケースはありました。そのときに盾になるのは、商業施設の警備員ですし、対策を立てるのは、店舗の店長や会社の責任者というのが当たり前でした。

そういう感覚があったので、うちの画廊では作家さんにこちらがお願いして、企画展を開いていただいている立場なので、画廊側に作家さんを守る責務があるんじゃないかなと思ったんです」

●「画廊内での禁止事項」を公表

そこで作成したのが、ツイッターで2020年7月に公表した「画廊内での禁止事項」だった( https://twitter.com/gallery_kujira/status/1278201825888354305 )。

「悲しいことに、近年様々な展覧会場で、在廊中の作家さんをターゲットとした迷惑行為が散見されます。

作家さんの安全を守ることは画廊の責任であると私たちは考えます。

法律家の知人と相談の上、方針を定めました。情勢を踏まえ、少々厳しめにいきます」

として、次のような行為を禁止した。

・在廊する作家さんと二人きりになろうとする

作家さんの安全面から店主も同空間に必ずいるようにしています。万一お客さんが作家さんと二人きりを望み、それを作家さんが望まない場合はその時点でお帰りいただくことをお願いする場合がございます。

・作家さんにプライベートなお誘いをする

食事やドライブなどプライベートな誘いを作家さんにすることをくじらのほねでは禁止しております。

・作家さんに執拗に連絡先を尋ねる

個人的な連作先を作家さんから聞き出そうとする行為はくじらのほねでは禁止しております。

これら以外にも、作家への被害がある場合は退去を求めること、退去に応じない場合は不退去罪にもとづいて警察に通報することなどを明記。作品を購入したことを理由に行為に及んだ場合は、売約を取り消することも書いた。

●被害者は泣き寝入りの「ブラックボックス」

この対策はツイッターで広まり、共感を集めた。「自分も作品購入したからといって、連絡先を求められたことがある」「イベントブースでずっと自分の話をして帰らない人がいた」などと被害を打ち明けたり、賛同する人たちもいた。

飯田さんは「主催者が企画画廊の場合、安全管理の責任は画廊側にある」と考えている。だから、その感覚でツイートしたところ、反響があったことに驚いたという。

「当たり前のもとを明文化しただけなのですが、『よく書いてくれた』とツイッター外でも反響がありました。それで、自分が書いたことは美術業界では珍しいことだったんだなと思いました」

飯田さんによると、ギャラリーストーカーや、作家へのハラスメントは必ずしも、客から作家に対してとは限らないという。先輩の作家が後輩の作家に対してすることもあれば、ギャラリーが作家に対してするケースもある。

「日本の美術業界の作家さんは、音楽のアーティストと違って事務所に所属することがなく、作家活動しようとすると否応なくフリーランスになることが多いです。そうすると、誰も守ってくれない弱い立場に置かれてしまいます。

私の周囲でも、ハラスメントが起きても『美術業界だから仕方ない』といって、美術という言葉が免罪符になっていることがあります。そうして被害にあった作家さんが泣き寝入りするケースが本当に多いです。

美術業界自体が、すごい狭いブラックボックスになってしまっている状態だと思います。ほかの業界で同じことをしたら、訴訟沙汰になるようなことも少なくありません」

そうした中、飯田さんの取り組みは、少しでも安心して作家が創作活動をおこなえる環境を整えたいという思いからだという。くらじらのほねでは、画廊のオープンから約1年、大きなトラブルもなく、作家たちの企画展が開かれている。

「ストーキングやハラスメントによって、筆を折ってしまう作家さんもいると聞いたことがあります。本当に、せっかくの才能がもったいないです。画廊が作家さんを守るような取り組みが広がってほしいと思っています」

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