2021年に話題になったものの一つに「撮り鉄」による撮影マナー問題がある。進入禁止の場所に入って電車を止めたり、ホーム内での危険な撮影で駅員から注意を受けたりといった騒動が起きているのだ。
鉄道会社の労働者からは「警察がなかなか対応してくれず、相当なストレスになっている」などの声も出ている。運転中の様子を長時間撮られることも負担になっているといい、現場は「撮影」に対してナーバスになっているようだ。
●クレーム対応、切り取って投稿される例も
交運労協は12月10日、鉄道やバスなどで働く組合員の約半数が、客からの暴言などカスタマーハラスメント(カスハラ)被害にあっているとする調査結果を発表した。その席上、鉄道関係の構成団体から次のような報告があった。
「鉄道マニアによるトラブルが多く、注意するとクレームを受けるということも聞いている。相談しても警察はなかなか来てくれず、相当なストレスになっている」(JR連合・荻山市朗会長)
撮り鉄のマナーが話題になった背景には、トラブルの動画がSNSなどで拡散し、多くの人の目に触れたことがある。ただ、撮り鉄問題に限らず、トラブル動画に映り込んでしまうことは、労働者にとっても負担になる。
「クレーム対応などの動画を(都合よく)切り取られて、SNSにアップされる事例もある。鉄道の労働者は名札をしているので、個人を特定されてしまって大きなストレスになっている」(荻山会長)
問題が発生すれば、すぐに個人が特定され、「トレンドブログ」などにまとめられてしまう昨今。動画がどのように編集され、拡散されるかわからない以上、撮られる側が感じる恐怖は想像に難くない。
●運転席の撮影は「安全問題」
また、直接的なトラブルではないが、スマホやSNSの普及から、運転席などを動画撮影されることも増えているという。
「クレームではないが、鉄道に乗っていると乗務員はずっと撮影されることがあり、組合員からはプレッシャーを感じる、集中力を欠くという声も出ている」(荻山会長)
「前方注視や速度計の確認もしないといけないがものすごく気が散る。安全問題だと思っている」(JR総連・山口浩治執行委員長)
カスハラ調査に当たって、組合員からも次のような自由回答があったという。
「ここ数年迷惑行為で良く耳にするのは、SNSを利用した誹謗・中傷が多い、写真をとられることもあるそうだ。社員である以上に一人の人間として個人の尊厳など守られていないと感じる。対策等が必要」
電車の車体と違って、労働者は生身の人間。公共性が高い仕事とはいえ、撮影や公開にあたっては一定の配慮が求められる。