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2020年09月14日 09時54分

ネット中傷、投稿者の電話番号も開示対象に…でも「万能」ではない、その理由とは?

出口絢 出口絢
ネット中傷、投稿者の電話番号も開示対象に…でも「万能」ではない、その理由とは?
Zoomインタビューに答える清水弁護士(2020年9月)

どうすればネットの誹謗中傷を受けた人の被害回復を速やかにできるのか。発信者情報開示のあり方について、総務省の研究会で議論が進んでいます。その一つの方策として、総務省は8月31日、情報開示の対象に投稿者の電話番号を追加する省令改正をおこないました。

SNS事業者などのコンテンツプロバイダから電話番号が開示されれば、弁護士会照会という調査手段で住所や氏名が判明するため、裁判手続きが1回で済むケースが増えることになります。また、通信ログが一定期間で消えてしまう問題にも対処できると期待されています。

ただ、ネットの誹謗中傷問題に詳しく、総務省の研究会構成員もつとめる清水陽平弁護士は「それほど実務で使えるわけではない」と話します。一体どういうことなのでしょうか。話を聞きました。

●電話番号で全ての問題が解決できるわけではない

——電話番号も開示対象になることで、今後どのような影響がありますか。

2019年12月に、「電子メールアドレス」に「SMSメールアドレス」が含まれるとして、SMSメールアドレスつまり電話番号の開示を命じる判決が出ていましたが、解釈に争いがあることは否定できません。

今回、電話番号が開示対象に正式に追加されたことで、条文解釈上「SMSメールアドレス」が「電子メールアドレス」に含まれるかどうか、裁判で争わずに済むようになりました。

ただ、電話番号で全ての問題が解決できるわけではありません。SNS事業者(コンテンツプロバイダ)の全てが、利用者の電話番号を取得しているわけではないからです。

日本の事業者では、ヤフー株式会社が持っている可能性があります。Yahoo!知恵袋やYahoo!ファイナンスの書き込みに対する訴訟では有用だと思います。

海外の場合、TwitterやFacebook(Instagramを含む)、Googleが電話番号を持っている可能性があります。しかし、海外事業者相手では、訴訟手続きに時間がかかってしまうという別の問題が出てきます。

電話番号の開示請求は、仮処分ではできず、通常の裁判手続となります。仮処分が使用できるのは、民事保全法が要求する「保全の必要性」がある場合であり、保全の必要性とは、開示請求に関していえば、今すぐ開示請求しないと相手を特定できない恐れがあるとき、を指します。

IPアドレスなどのログの場合は保存期間が短いことから保全の必要性が認められますが、電話番号はアカウントに紐づけられており短期間で消えるものではないため、保全の必要性が認められないのです。

仮処分では、呼出状等の送付は適宜な方法でよいとされ、実務上はEMS(海外スピード郵便)が使われており、3週間程度で仮処分期日が入るのに対して、通常の裁判手続では民事訴訟法が定める「送達」という手続きが必要になります。

海外事業者に対する送達手続には半年ほどの期間がかかります。相手方に届いてからようやく裁判が始まることになるため、実際に判決が出るまでに早くても8カ月〜1年弱程度かかってしまうことになります。

●空振りになる可能性もある

ーー現状、相手を特定するのに2回訴訟をする必要がありますが、海外事業者相手だと電話番号開示請求だけでも2回の訴訟と同じくらいの時間がかかってしまうのですね。

さらに、訴訟するまでSNS事業者などがその利用者の電話番号を保有しているかどうかも分かりません。ですので、開示請求の裁判をして開示命令が出ても、電話番号を保有していなかったということもありえます。

日本事業者に対しては数週間で訴状の送達ができますから、やる意味があると思いますが、海外事業者は結局1年ほどかかるとなると、1年かけて空振りになるのは避けたいですから、従来通りIPアドレス等の開示請求の仮処分もやらざるを得ないことになります。

●新しい裁判手続き、どうなる?

ーーこうした海外事業者への訴状送達の問題も解決できる「新しい裁判手続」を創設するかどうか研究会で議論されています。

海外事業者への訴状送達の問題は、プロバイダ責任制限法ではなく民事訴訟法の問題であり総務省が解決できる問題ではありません。そこで、総務省としては新しい裁判手続を創設することで海外事業者への送達問題を解決することを検討しているようです。

非訟手続を前提に考えているようですので、それであれば確かに送達に関する問題は解決できる余地があります。

どのような手続きを前提に考えているかは必ずしも明らかではないですが、1度の裁判手続でコンテンツプロバイダとアクセスプロバイダを相手にして開示をさせる、ということを考えているようです。

1回的解決ができるというのはよいことですが、開示請求側には開示の決定が出るまでIPアドレス等の情報は開示せず、またどのアクセスプロバイダであるかも教えないということであれば、実際上の使い勝手は非常に悪く、被害救済ができない事例が増えるような気がします。

開示請求を受けたコンテンツプロバイダはログを調査し、そのログの提供を受けた裁判所がアクセスプロバイダに連絡を取ることになるでしょうが、裁判所がログをきちんと精査・検討する能力があるとは必ずしも思えません。

特に最近は開示されたログだけから発信者の特定はできず、他の付加情報を加えてようやく特定できるという事例が増えていることに鑑みると、より一層難しさが増しています。

当事者だからこそ「このような観点からならログが特定できるのではないか」など頭をひねることで、ようやく特定できる例も少なくありません。裁判所が、またはコンテンツプロバイダがそのような粘り強い調査や検討をすることがなかなか想定できません。

新しい裁判手続を創設するのであれば、使えるものにならないと意味がありません。そのため、創設の可否も含めて十分な議論をしたいと思います。

取材協力弁護士

清水 陽平弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省が主催する「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の構成員となっている。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第3版(弘文堂)」などがある。
事務所URL:http://www.alcien.jp

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