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安倍首相は「JASRAC」に許諾をもらう必要があった? 星野源さん「うちで踊ろう」コラボ動画
安倍首相のインスタグラムより

安倍首相は「JASRAC」に許諾をもらう必要があった? 星野源さん「うちで踊ろう」コラボ動画

新型コロナが感染拡大する中、外出自粛を呼びかけようと、安倍晋三首相が4月12日に公式SNS上で公開した動画が炎上した。官邸側は「ツイッター上で、過去最大の『いいね』が付くなど、大きな反響があった」と評価しているが、一部で「著作権侵害だ」という声もあがっている。

●ネット上で「政治利用だ」という批判があがった

安倍首相の公式ツイッターとインスタグラムに投稿された動画は次のようなものだ。

ミュージシャンの星野源さんが歌う「うちで踊ろう」の動画にあわせて、安倍首相が自宅で愛犬を抱いたり、ソファーに座って、茶や読書したりする様子など、くつろいで過ごしているところが映っている。

安倍首相は「友達と会えない。飲み会もできない。ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています。そして、今この瞬間も、過酷を極める現場で奮闘して下さっている、医療従事者の皆さんの負担の軽減につながります」とつづっている。

新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言を受けて、政府が呼びかけている「外出自粛」をアピールする意図があったとみられる。ところが、この動画に対して、インターネット上で「政治利用だ」といった批判が殺到した。

●星野さん「安倍晋三さんから事前連絡は一切ありません」

もともと星野さんは4月3日、インスタグラムで、この曲を演奏・歌唱する様子を投稿した。「家でじっとしていたらこんな曲ができました」「誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな」と呼びかけた。

これに応じて、さまざまな著名人たちがコラボ動画を投稿していた。しかし、安倍首相の動画が大炎上したことを受けて、星野さんは12日深夜、インスタグラムのストーリーを更新した。

「ひとつだけ。安倍晋三さんが上げられた“うちで踊ろう”の動画ですが、これまで様々な動画をアップしてくださっている沢山の皆さんと同じ様に、僕自身にも所属事務所にも事前連絡や確認は、事後も含めて一切ありません」

●菅官房長官「過去最大の反響をいただいた」

13日午前の官房長官会見でも、「この動画はどういう意図なのか?」という質問が飛び出た。菅義偉官房長官は「星野さんがSNS上で『うちにおいでよ』を公開してことに総理が共感をして、今般の配信に至ったものであります」と回答。次のように続けた。

「最近、20代を中心に若者の感染者が増えていることから、外出を控えてもらえたい旨を発信するために、SNSでの発信は極めて有効であると考えております」

「ツイッターでは、確認できる範囲では、過去最大の反響をいただいており、多くのみなさんにメッセージが伝わることを期待しています」

内閣官房広報室は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「批判は把握している」「星野さん側に連絡はしていないのはたしかだ」と回答した。

●星野さんの楽曲はすべてJASRACが管理する

一方、「著作権侵害だ」という声もある。はたして、本当なのだろうか。著作権法にくわしい高木啓成弁護士が解説する。

「作詞・作曲した星野源さん自身が許諾をしている以上、誰もが自由に利用することができて、安倍総理の動画に対しても星野さんは異議を述べていないことからすれば、法的には何ら問題ないように思えます。

しかし、音楽の権利処理上は、少しハードルがあります。

JASRACのデータベースによると、星野源さんは、JASRACと信託契約を締結して、信託者(信託会員)になっています。信託契約上、星野源さんが作ったすべての楽曲は、JASRACに著作権が移転して、JASRACが著作権を管理することになります。

ですので、いくら星野源さんが『自由に利用してもいいですよ』と許諾しても、原則として、利用者は、JASRACに申請して著作権使用料を支払わなければならないのです。これは星野さん自身も同様で、自分で作った曲でも利用する場合はJASRAC申請が必要となります」

●ツイッターは包括契約していない

ただし、高木弁護士によると、JASRACと包括契約をしているサービスがあり、それは例外になるという。

「YouTubeやニコニコ動画などでは、JASRAC楽曲を利用できるということはご存知の方も多いと思います。包括契約というのは、YouTubeやニコニコ動画の運営会社が、JASRACにお金を支払っているので、そのユーザーはJASRACに申請しないで済むという仕組みです。

インスタグラムも最近、JASRACと包括契約をしたので、インスタグラム上でユーザーが『うちで踊ろう』を利用することは問題ありません。

一方、ツイッターはJASRACと包括契約していません。ですので、ツイッター上で『うちで踊ろう』を利用する場合、JASRACへの手続きが必要なのです。これは、安倍総理に限らず、ツイッターユーザー全員が同様です」

●インタラクティブ配信を除外している可能性

「ただ、ツイッターでは申請が必要ということになると、星野さんは『自由に利用してください』と言いにくいですよね。そこで、星野さん側としては、以下のような方法を取ることが考えられます。

先ほど、『星野さんが作った楽曲は、すべてJASRACに著作権が移転する』と言いましたが、実は、星野さんから直接JASRACに移転させるのではなく、音楽出版社(楽曲のプロモーションをしたり、著作権管理をする企業)を経由させて著作権譲渡することができます。むしろ、音楽ビジネス上は100%そうなっています。

そして、音楽出版社(またはその一部の事業部)によっては、JASRACとの信託契約上、たとえば、『楽曲の著作権のうち、コンサートで演奏する権利(演奏権)はJASRACに預けるけど、インターネット上で利用する権利(インタラクティブ配信)はJASRACには預けずに自分で管理する』というかたちで、楽曲の著作権の一部をJASRACの管理から除外していることがあります。

星野さんは、インターネット上で利用する権利(インタラクティブ配信)をJASRAC管理から除外している音楽出版社に『うちで踊ろう』の著作権を譲渡すれば、ツイッターでユーザーが『うちで踊ろう』を利用しても、JASRACに申請する必要はありません(正確に言うと『ビデオグラム録音』という区分も除外している必要があると思います)。

音楽出版社は、楽曲の利用方法やプロモーションなどの戦略を考えて、JASRACに管理委託する区分、NexToneに管理委託する区分、自己管理する区分を決めており、とても興味深いですよ」

プロフィール

高木 啓成
高木 啓成(たかき ひろのり)弁護士 渋谷カケル法律事務所
福岡県出身。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。映像・音楽制作会社やメディア運営会社、デザイン事務所、芸能事務所などをクライアントとするエンターテイメント法務を扱う。音楽事務所に所属して「週末作曲家」としても活動し、アイドルへ楽曲提供を行っている。HKT48の「Just a moment」で作曲家としてメジャーデビューした。Twitterアカウント @hirock_n

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