2019年10月09日 10時26分

「イートイン脱税」「正義マン」より害悪なのは「軽減税率」そのもの…弁護士が法的問題を検証

「イートイン脱税」「正義マン」より害悪なのは「軽減税率」そのもの…弁護士が法的問題を検証
イートインコーナー

10月1日から消費税が10%に増税され、飲食料品と新聞を税率8%にする軽減税率が導入された。コンビニなどのイートインコーナーを利用する場合は、軽減税率が適用されない外食と同じ扱いになるため、店に申告して、税率10%で利用する必要があるが、申告をしないまま利用する行為が「イートイン脱税」だとして、問題視されている。

産経新聞によると、麻生太郎財務相は10月8日の会見で、この問題について、「業界団体などを通じ実態把握に努めないといけない」、「周知、広報を含め、軽減税率制度の円滑な実施・定着にむけて必要な対応を講じたい」と話している。

国税庁は「倫理上はともかく、制度上の問題はない」としており、罰則もない。「イートイン脱税」を見つけても、コンビニ側は深追いしない運用にしているため、客に申告を促す以外に、止めようがない状況だ。

法律上は、詐欺罪にあたるのではないかという指摘もでているが、法的な問題はないのだろうか。林朋寛弁護士に聞いた。

●納税義務があるのは事業者なので、消費者にとっては「脱税」ではない

まず、消費税法の観点から、問題はないのでしょうか。

「それにしても『イートイン脱税』とは酷い言い様ですね。

今回増税となった『消費税』について、納税義務者は、飲食品やサービスを提供する側の事業者です(消費税法5条)。飲食品を購入する消費者は、消費税分を対価の一部として負担しているとしても、消費税の納税の義務を課されているわけではないですから、消費税を『脱税』する立場にはありません。

消費者が脱税をしているかのような『イートイン脱税』という表現は、誤解を生じさせます」

国税庁の「倫理上はともかく、制度上の問題はない」という見解について、どう考えればいいのでしょうか。

「そうだとすれば、事業者の消費税の申告に関しては、消費者(客)の申し出に従って消費税分を含む代金の精算をして計上していれば、商品の受け取り後に消費者がイートインコーナーを実際に利用していたかどうかまで、国税庁は原則として問題としないということだと考えられます。

仮に、客からイートインコーナーを利用したいという申し出があって、10%の税率で代金をもらっていた分を、持ち帰りで8%の税率で計算した代金を受け取ったことにして、差額の売上を事業者が隠していたということでもあれば、そのときは『イートイン脱税』といえるかもしれません。ただ、その2%分をごまかす手間をかけた売上除外が現実にあり得るのかは分かりません。

そもそも、イートインコーナーを利用するのに、持ち帰りと言って増税分の10円程度をごまかす人が出てくることよりも、軽減税率の導入で、税率を分けて対応しなければならなくなった社会の費用的・時間的コストの被害の方が甚大でしょうし、国民が飲食品を買うときに、いちいち持ち帰りかどうかを言わされたり、詐欺や脱税になるのか悩まされたりする方が社会的な害悪だと思います」

●詐欺罪は原則として成立しない

消費税法以外の問題として、刑法上の詐欺罪などにあたる可能性はあるのでしょうか。

「先ほど説明したように、消費税の納税義務者は消費者ではないので、消費者は『税金を安く済ませた』ということではなく、代金を安く済ませたということになります。

代金を安く済ませたことが店側に対する詐欺罪になるかどうかというのは、たとえば、コンビニで本体価格500円の食品を買う時に『イートイン』なら税率10%の売買なので税込み代金550円となるところ、『持ち帰り』と言って税込み540円の支払をして商品を受け取ってからイートインコーナーを利用した場合に詐欺罪となるかという問題を考えてみましょう。

レジで支払いをする時にイートインを利用するつもりなのに『持ち帰り』であると嘘を告げて店側をだまして商品を交付させたとして、詐欺罪(刑法246条1項)に形式的には該当するといえるかもしれません。

私としては、店側としては客の申し出のとおりにレジを打って代金を計算して販売すれば足り、精算後に本当に客が持ち帰りにするのかイートインを利用するのかまではいちいち考えて売買をしていないでしょうから、店側が『だまされた』とまではいえないので、詐欺罪は原則として成立しないと考えます。

また、税抜き価格の2%分の代金を免れた詐欺利得罪(同条2項)の問題についても、同様に店側が『だまされた』といえないでしょうし、2%分の代金免除の処分行為もないでしょうから、私見としては詐欺利得罪も原則不成立と考えます。

仮に持ち帰りと偽って飲食品を購入した人がいたとしても、店側に実質的な損害がなく、詐欺罪は現実には問題にしないでしょう。むしろ、そんな人がいたとしても店側としては詐欺罪だと騒がれる方が迷惑至極でしょう」

●「正義マン」よりも、「軽減税率」そのものが国民にとって有害

他の客の行為について、店員に指摘して注意を促すよう要求する「正義マン」が発生する可能性も指摘されています。

「そんな『正義マン』こそ、店側の業務を実質的に妨害して、他の客にも迷惑をかける害悪ですね。

そして、『正義マン』よりも、現実の各々の売買で10円20円の差の扱いに詐欺罪ではないかと消費者を悩ませ、事業者を困らせる『軽減税率』そのものが、そもそも日本国民にとって有害だと思います。

詐欺かどうかを話題にするのであれば、税率を据え置きのままで軽減したわけでもない『軽減税率』という言葉が詐欺的ですし、消費税増税の目的が社会保障費の確保のためというのも眉唾物です」

取材協力弁護士

林 朋寛弁護士
北海道江別市出身。札幌南高、大阪大学卒。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。平成17年10月弁護士登録(東京弁護士会)。沖縄弁護士会を経て、平成28年から札幌弁護士会所属。経営革新等支援機関。税務調査士Ⓡ。登録政治資金監査人。

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