自転車の酒気帯び運転は、改正道路交通法に基づき11月1日から罰則の対象となった。また、「携帯電話(スマホ)を手で持って通話」「携帯電話の画面を注視」などの「ながらスマホ」については罰則が強化された。
これまでは自転車の「酒酔い運転」は罰則の対象だったが、「酒気帯び運転」は対象外だった。「酒気帯び運転」の罰則は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」だ。
「ながらスマホ」の罰則については、これまで5万円以下の罰金だったが、1日より「6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金」と重いものとなる。事故など危険を生じさせれば「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」だ。
そこで気になるのは、もし謙虚された場合だ。公務員が飲酒運転した場合には処分が重く、たとえば酒酔い運転であれば、事故の有無にかかわらず懲戒免職や退職金不支給となるケースもある。また会社員の場合も、停職などの懲戒処分となる可能性がある。
では通勤で自転車を使った際、あるいは私生活上で「酒気帯び運転」や「ながらスマホ」で検挙された場合、会社から何らかの懲戒処分を受ける可能性はあるのだろうか。今井俊裕弁護士に聞いた。
●「懲戒処分はかなり難しい」
民間企業に勤務している人が、通勤途上や、あるいは、休日等の全くのプライベートの時間帯に、酒気帯び運転やいわゆる「ながらスマホ」で自転車を運転しているところを検挙されて刑罰を受けた場合、会社は懲戒処分をすることができるかどうかですが、結論としてはかなり難しいです。
というのは、まず、休日等ならばもちろんのことですが、通勤途中とはいっても会社から業務に関する指揮命令を受ける立場にはなく、いわばその人の私生活上の時間帯と言えます。
その時間帯は純粋にその人のプライベートな時間であり、会社の管理下や監督下にはなく、一般人としての自由行動が保障されている時間帯です。
労働者として会社に雇用されたならば、たとえ勤務時間外でもその会社の管理下や監督下にあるというわけではありません。とすればその時間中の違法行為や反社会的な行為は、原則的に会社の業務や信用や組織の基本秩序維持とは無関係な問題となります。したがって懲戒処分はできません。
しかし逆にいえば、たとえ私生活上の時間帯に起こした不祥事であっても、それが勤務先である会社の信用や組織秩序の維持へ悪影響を与えたと認められる場合は、例外的に会社としても懲戒処分を行うことができる場合があります。
たとえば、バス会社やタクシー会社に運転手として在籍している者がプライベートで飲酒運転をして検挙された場合です。
その事件が報道されたかどうかも一つの考慮材料にはなりますが、そのバス会社やタクシー会社への社会一般の信頼や信用、評判に悪影響を与えることは十分にあり得ます。このような事案では会社が懲戒解雇を行うことが正当であるとされることもあります。
●公務員の場合は?
ただし、以上述べたことは、あくまで民間企業の従業員の場合です。
これが公務員となると事情は異なってきます。公務員は行政法の基本原則上は全体の奉仕者という立場にあり、たとえ私生活上の不祥事であっても厳しく懲戒処分を受ける立場にあります。
特に自衛官や警察官ともなると、社会秩序や公共の安全に関わる職務上の地位にあるとみなされて、なおさら厳しい処分を受ける立場にあります。そのため私生活上の酒気帯び運転等であっても厳しく処分されることがむしろ通常です。
たとえば、国家公務員については、人事院が定めている「懲戒処分の指針」は、酒酔い運転は「免職または停職」、酒気帯び運転は「免職、停職または減給」と定めています。死傷させた場合はさらに処分が重くなり、酒酔い運転では「免職」一択です。
では、ながらスマホについてはどうかというと、確かに今年11月からは検挙された場合の刑事処分は厳しくなりますが、しかしそれでもまだ酒気帯び運転(3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)や酒酔い運転(5年以下の懲役又は100万円以下の罰金)よりは軽い刑事処分です。
ですから、運送事業の運転などの業務に従事していない者ならば、私生活で「ながらスマホ」で検挙されたことを理由として懲戒処分を加えることは難しいのではないでしょうか。
もっとも、これは今後の我が国の交通事情や社会情勢をみてみないとなんとも言えない面もあります。仮に公務員がながらスマホで検挙された場合は、それだけでいきなり免職は厳しすぎるように思いますが、何らかの懲戒処分は有効と判断される余地があるといえるでしょう。