「飲んだら乗るな」じゃなかったのかーー。東京地裁が7月3日に出した判決に疑問の声があがっている。
裁判を起こしたのは、酒気帯び運転で免許を取り消された東京都の男性。裁判所は、原告の「飲酒はしたが、まだ酔いが回っていなかった」旨の主張を支持し、取り消しは無効と判断したという。
報道によると、男性は2016年11月、焼酎の水割りを飲みながらオートバイの運転を開始したといい、呼気1リットルあたり0.16mgのアルコールが検出されたという。0.15mg以上は酒気帯び運転だ。
ネットでは「事故を起こしてからじゃ遅い」「酒飲みながらの運転はダメだろう」などの疑問の声があがっている。
いったいどうして、こういう判決になったのか。大山滋郎弁護士に聞いた。
●検査までの30分がポイントに…
なぜ取り消しが無効と判断されたのか。
「本件は、検査したときのアルコール濃度が基準値を超えていたので、行政側は違法と判断したわけです。
ただ、検査の時点と、運転の時点とで、かなり間隔がある場合には、運転していたときにはそこまでのアルコール濃度ではなかったのではないかという疑いが生じえます。裁判所は、その点について、厳密に考えたことになります」(大山弁護士)
報道によると、警察に呼び止められたのは飲酒開始から約5分後。検査はそこから30分ほどたってから行われたという。
●悪いのは「裁判官」ではなく「法律」?
しかし、今回は「アルコールが残っていた」というケースとは正反対で、時間がたつほど、酔いが回っていた可能性が高い。
呼気中のアルコール濃度だけで判断するのなら、飲酒しながらの運転でも、しばらく走ってからでないと取り締まれないことになりかねない。飲酒していたドライバー・ライダーもなるべく検査までの時間を引き伸ばそうとするだろう。
「確かにそういう心配は出てきますね。今回のケースで、免許の取り消しができないというのは、相当常識外れに思えます。現行の免許取り消しの制度に欠陥があるのは明らかです。
ただ、だからといって、今回の判決を出した裁判官がおかしいというのは、少し違う気がするのです。ネットのコメントなどを見ていますと、裁判官を批判する人は多いのですが、法律自体を批判したり、さらには『こういう法律にすればよいのでは』といった意見はほとんどありませんでした。
行政にしろ、裁判にしろ、法律に基づいて行うのが、近代国家の原則です。行政が法律を離れて勝手に決めたり、広い裁量権を持ったりするのは妥当でないとされてきました。
今回の事案でも、法律で『飲酒しながら運転したら免許取り消し』と定められていたなら、特に問題なく取り消しもできたはずです。
『法律の厳密な規定がなければ、人権制限はできない』『法律はできるだけ厳密に解釈することが必要』という、近代法の大原則を考えると、今回の判決を単純に不当だともいえないように思えるのです」