野良猫に関する苦情や殺処分が多い状況を改善しようと、和歌山県はこのほど、県動物愛護管理条例を改正する方針を示した。条例には、野良猫への「餌やり」を原則として禁止するルールなどを盛り込む予定だ。
県食品・生活衛生課によると、2013年度に和歌山県内で殺処分された猫は2521匹。人口10万人あたりでは、257.5匹と全国で4番目に多い数字だった。「無秩序な餌やり」が野良猫の増加につながっているという。
8月上旬に示された条例改正案の骨子によると、飼い主のいない野良猫への餌やりを原則として禁止する。ただ、地域住民がグループを作り、野良猫の不妊去勢手術をして、餌やりや排せつ物の処理などを適切におこなう場合は、県に届け出ることを条件に「地域猫」として飼えるようにする。
今年3月には京都市で、野良猫への不適切な餌やりを禁止する条例が成立した。このようなルール作りが全国的に広まりつつあるが、今回の和歌山県の条例改正案を、動物の法律問題にくわしい弁護士はどのように評価するのだろうか。細川敦史弁護士に聞いた。
●「原則と例外が逆転している」
「今回の条例案は、これまでにない大きな問題を含んでいます。それは、飼い猫以外の猫に対する餌やりを『原則』として禁止していることです」
細川弁護士はこう切り出した。どういう問題なのだろうか。
「野良猫への餌やりを規制する条例はこれまで、東京都荒川区と京都市で成立しています。また、奈良市や横浜市など、検討したけれど見送った自治体もあります。
これらの自治体の条例あるいは条例案は、野良猫の餌やりは直ちに違法な行為として禁止の対象とはならず、周辺の生活環境を著しく悪化させた場合に違法とされる、という構成でした。
一方、和歌山県の条例案は、(1)所有者の同意がある場合(2)条例が定める地域猫対策による場合(3)獣医師の診療に伴う場合・・・これら3つの例外的ケース以外は、すべて禁止という構成になっています。つまり、原則と例外が逆転しているのです。
また、条例案は『無秩序な餌やり行為を防止する』目的で、今回の規定を検討しているようです。しかし、そのような目的であれば、野良猫への餌やりの原則禁止は、規制の手段として広すぎます。
『条例が認める3つのケース以外の餌やり=無秩序な餌やり』という関係が成り立たないからです」
●「たま駅長」のような猫がいなくなってしまう?
具体的にはどのような問題があるのだろうか。
「たとえば、お店や職場の周りで見かける猫に餌をやっているうちに、みんなの人気者になることもあるでしょう。和歌山であれば、漁港で漁師から余った魚をもらうこともあるでしょう。
やせ細った猫がいるのに見かねて、餌や水をあげることもあるかもしれません。これらが常に『無秩序な餌やり』に該当するというのは、少し難しいと思います。
このような餌やりをすべきか否かは、人によって意見の違いはあるかもしれませんが、少なくとも条例によって禁止すべきものではないと考えます」
では、無秩序な餌やりを防ぐ方法は、ほかにどんなものがあるのだろうか。
「公園などに自治体名でポスターを掲示する方法があります。ポイントは、『餌やり禁止』とするのではありません。適切な餌やりの方法を説明したり、ボランティアによる餌やりが実施されているため餌やりの必要がないことを説明することです。実際に、このようなポスターを掲示して、効果を上げているところもあります。
条例による規制は、手順を踏んでも十分な防止の効果が上がらない場合に初めて、必要性が検討されるべきです。
和歌山といえば、電鉄会社や地域経済に貢献し、多くの人に愛された『たま駅長』も野良猫がルーツだといわれています。野良猫への餌やりが原則禁止となれば、こうした猫もいなくなってしまうかもしれません」
細川弁護士はこのように述べていた。