欧州人権裁判所は7月21日、イタリアの同性カップル3組の「結婚やそれに準ずるパートナー関係」を認めないのは人権侵害だとして、1人あたり5000ユーロ(約68万円)の損害賠償と合わせて1万4000ユーロの訴訟費用を支払うよう、イタリア政府に命じる判決を下した。
男性カップル3組は、イタリアの制度のもとでは、結婚もできないし、結婚に準ずる公的なパートナーシップ関係も認められていないため、人権侵害を受けていると訴えていた。
欧州人権裁判所は「共同生活を送り、事実上のパートナーである同性カップルの関係性は、欧州人権条約8条でいう"家族生活"の範ちゅうのものだ」「同性カップルの関係性は、法的に認定され、保護される必要がある」とした。
さらに、イタリアの同性カップルに対する法的保護について、不十分で信頼できないものだと指摘。イタリア国内の裁判所が公的証明や保護の必要性を何度も指摘しているにもかかわらず、法整備が進んでいないと認定したうえで、欧州人権条約8条に定められた「私的および家庭生活を尊重される権利」が侵害されていると結論付けた。
同性愛者の法的問題に詳しい弁護士は、今回の決定をどのように受け止めるのだろうか。森あい弁護士に聞いた。
●欧米は「飛躍的に進んでいる」
今回の判決では、同性カップルの法的保障をしないことは人権侵害だとされました。ヨーロッパでは、同性カップルの法的保障が飛躍的に進んでいます。南北アメリカでも同様の動きが見られます。
一方、日本は、同性どうしでは婚姻ができませんし、婚姻を代替するようなパートナーシップ制度も全くありません。同性カップルは「法的に全く保護されていない状態」です。
今年3月、渋谷区では、一定の条件を満たした同性カップルについて「婚姻に相当する関係」と証明するという条例が成立しました。
公的機関が同性カップルの存在を正面から認めるという、この条例の意義は大きいと思います。
しかし、たとえ証明書をもらっても、それ自体に特段の法的な効果はありません。渋谷区の証明書は、同性間のパートナーシップを、法的に保障したとまで言えるものではないのです。
●「同性婚」求める動きは日本でも
日本では「同性間の関係はしょせん遊びである」などとされ、人権問題とは、まだまだ認識されていません。「勝手にやっている分にはまあいいが、権利の保障など厚かましい」というような扱いだと思います。今回の欧州人権裁判所の判決について、日本では、遠い場所の出来事だと思う人も多いでしょう。
しかし、今回の判決にもあるように、同性パートナーシップの保障は「人権」の問題なのです。
日本でも今年の7月7日、「同性婚ができないことは人権侵害だ」として、同性愛者ら455人が同性婚法制化の勧告を求めて、日弁連に人権救済を申し立てています。法的保障を求める同性カップルは、日本国内にも多数存在するのです。
制度が日本には馴染まないとか、真剣に検討するに値しないなどと、もはや言ってはいられない状況です。
今回の判決が、同性カップルの法的保障を求める人の声に耳を傾けたり、不平等な現状に気づいたりするきっかけになって、前向きな検討が行われることを期待しています。