「独身を装って交際していたが、嘘がバレて、相手から訴えると言われている」。ネットの掲示板に、こんな投稿がされた。投稿したのは、独身の相手と10年間交際していたという男性だ。
男性は既婚者であるにもかかわらず、独身と嘘をついたうえ、偽名まで使っていたという。お金やプレゼントをもらい、相手から「結婚したい」とも言われたが、あいまいにはぐらかして、その場をしのいでいたのだそうだ。
ところがあるとき、すべてがバレたようだ。相手から「金銭目的だったのね。既婚と知っていたら、尽くさなかったのに!」と罵られ、修羅場を迎えたのだ。
このように、交際相手に「独身だ」と嘘をついたり、「偽名」を使っていたことがバレた場合、相手に告訴されて、罪に問われる可能性はあるのだろうか。森本明宏弁護士に聞いた。
●「偽名」で交際することは犯罪なのか?
「まず、不倫をすることや、家族関係や氏名を隠して交際することが犯罪だとして、罰する法律はありません」
森本弁護士はこう指摘する。では、まったく問題がないのかといえば、そうでもないようだ。
「今回のケースでは、身分を偽って交際し、その間、お金やプレゼントをもらったことが、結婚詐欺などに当たるかどうかが問題となります」
男性のしたことは、結婚詐欺にあたるのか?
「結婚詐欺は『詐欺罪』の一類型です。結婚する意志がないのに、結婚をほのめかすことによって、金銭等を要求し、これを受け取ることを言います。
本件では、相手から『結婚したい』と言われても、あいまいにはぐらかしていたということです。したがって、結婚をほのめかして金銭等を要求することはしていないので、詐欺罪にはあたらないでしょう。相談者の行為が罪に問われることはありません」
だが、「刑法上罪に問われないといっても、何の法的責任も負わないわけではありません」と森本弁護士は続けた。
「過去にも、継続的に性交渉を持つなどの関係にあり、交際相手が結婚を前提とする真剣な交際を望んでいると知っていたにもかかわらず、独身を装い偽名を使って3年間交際を続けていた男性に対し、50万円の慰謝料の支払いを認めた裁判例がありました。
今回のケースでも、ウソをついていた人に対し、慰謝料請求が認められる可能性は高いです。
今回のケースでは、10年もの長期間にわたり交際していたことや、お金やプレゼントをもらっていたなどの事情からすると、さらに高額の慰謝料が認められる可能性があると言えるでしょう」
恋心を傷つけた代償は、それだけ大きいということだろう。