川崎市の中学1年生殺害事件で、殺人容疑で逮捕された18歳少年の顔写真や実名などが、週刊誌やネットを通じて公開されている。少年法では、氏名や年齢など、本人と推測できるような記事を掲載することが禁止されており、加害少年の情報を公開することの是非をめぐって、さまざまな意見がネット上を飛び交っている。
一方、今回の事件報道で、「被害者」の少年については、名前や年齢が繰り返し報じられているほか、顔を殴られて目の周りに大きな黒いあざがある写真まで公開されている。ネット上には、「実名報道の議論は加害者ばかり」「被害者のプライバシーは、どんどん公表されていいのか」との意見も多く、実名報道の議論が加害少年に集中していることに不満を持っている人もいるようだ。
今回のような少年同士の事件の場合、加害者のプライバシーが保護される一方で、被害者についてはどうなのか。何か制限はないのだろうか。佃克彦弁護士に聞いた。
●被害者のプライバシーも守られるべき
「『被害者のプライバシーは、どんどん公表されていいのか』という問題意識は、核心を突いています」
佃弁護士はこう切り出した。
「この種の事件が起きると、被害者側は、実名や顔写真などプライバシーに関わる事柄が報じられます。しかし、加害者の実名は、少年法の規定に基づいて匿名とされます。
ただ、加害者であろうと被害者であろうと、プライバシーの権利は保障されています。ですから、被害者のプライバシーも当然、守られなければなりません。したがって、現状のように、どんどん公表されてよいということはありません」
しかし、「加害者の人権ばかりが保護されていて、被害者の人権が置き去りにされている」と指摘されることも多い。どう考えればいいのだろうか。
「加害者の人権を保障することと、被害者の人権を保障することは、決して矛盾しません。両者は両立するものです。報道機関は本来、加害者と被害者、いずれのプライバシーにも配慮して報じるべきなのです」
●被害者の報道のあり方に問題あり?
つまり、報道機関が被害者側への配慮を怠っているということだろうか。
「報道機関は、加害者のみならず被害者についても、実名や肖像写真をはじめ、プライバシーに関わる事柄を報じる場合は、その報道に『正当性』があるかどうかをきちんと検討しなければなりません」
正当性はどう判断するべきだろうか。
「『正当性』の有無は、法的には、被害者の実名や顔写真を報じることに『公共性があるかどうか』という形で議論されます。事件報道は玉石混交です。事件から社会が学ぶべき課題を提示している報道は、有意義で『公共性』があるといえるでしょう。
ただ、その報道の中でも、被害者が一般の人である場合、実名などの情報は『私たちがその事件から何を学ぶべきか』という観点から見ると、必要とはいえません。つまり、被害者のプライバシーを報じる場合、原則として、実名や顔写真を公開することに公共性(=正当性)はないのです」
佃弁護士はこのように語り、事件報道の課題を指摘した。