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仮設住宅で「お茶っこ」やりながら法律相談――弁護士が聞いた東北「被災者」の悩み
被災地の現状について語る弁護士たち

仮設住宅で「お茶っこ」やりながら法律相談――弁護士が聞いた東北「被災者」の悩み

東日本大震災から4年。被災地で支援活動を続けてきた弁護士たちに見えてきたものは何か。岩手県沿岸部の津波被災地で活動してきた弁護士らが3月6日、東京都内で開かれたイベントで、これまでの支援活動と積み残された課題について語った。被災地で弁護士たちが聞いたのは、高齢化や過疎化が進む地域で、住宅ローンの負担や復興の遅れに頭を悩ませている住民の声だった。

●「もっと早く弁護士に相談してくれれば・・・」

日弁連が2012年3月に岩手県陸前高田市に開設した「いわて三陸ひまわり基金法律事務所」所長の在間文康弁護士は、兵庫県西宮市出身で、16歳の時に阪神淡路大震災に遭遇した経験をもつ。「阪神大震災のときは、全然困っている人の力になれなかった。そんな後悔の思いがあった」と、赴任の動機を語る。

通常の業務に加えて、仮設住宅に出向いて法律相談をしているが、もともと弁護士過疎だったこのエリアでは「弁護士に相談するハードルが、とにかく高い」という。

「ハードルを下げるため、『法律相談会』という言い方はせず、『すみません、弁護士なんですけど、お茶っこやりますんで、よかったら来てください』と呼びかけて、集まってもらう」

お茶っこというのは、お茶会のことだ。お茶を飲みながら、紙芝居を見てもらい、その後に隣に座って「何か困ったことないですか」と聞くと、ようやく「ぽつり、ぽつり」と悩み事を聞かせてもらえるのだという。

訪問相談は、およそ週1回のペースで、これまで150回ほど実施。「もっと早く弁護士に相談してほしかった」というケースが、ままあったという。

●4人に3人が利用できなかった「被災ローン減免制度」

被災地ではどのような問題が起きているのか。在間弁護士は「被災ローン減免制度」の問題点を指摘した。

この制度は、震災によって返済が難しくなったローンを、一定の要件のもとで「減額・免除」する手続きなのだ。しかし、次のようなケースでも、制度の利用を断られていたという。

「40代の夫婦、中高生の子どもが2人。自宅は全壊流出。住宅ローンが2700万円残っていた。なんとか家を再建したいが、貯金がない」

なぜ、住宅ローンの減免が認められないのか。在間弁護士の説明はこうだ。

「年収が世帯で700万ほどあるという理由で、制度利用を断られていた。しかし、2700万円のローンが残っていれば、新しいローンを組むのは無理で、住宅再建を諦めざるをえない。

当時、災害公営住宅ができるのはかなり先の話で、被災沿岸部の民間賃貸住宅は空きがない状態だった。そうなると、民間住宅の空きのある他の地域に移らざるをえず、結果として『復興の担い手』が外に流出してしまう。

被災ローン減免制度の目的は、被災者の生活再建を支援して、被災地の復興・再活性化に資することなのに、今の運用では逆に、被災地から人が流れ出ることになってしまっている」

これまで、「被災ローン減免制度」の相談は5500件近くあったが、実際の利用は約1350件。つまり、希望者4人のうち3人が制度を利用できなかったのだという。

●ボディーブローになっている「見えない将来像」

この日のイベントを主催した人権NPO「ヒューマンライツ・ナウ」の吉田悌一郎弁護士は、岩手県大船渡市の仮設住宅の人たちに聞いたアンケートの調査結果を報告した。

吉田弁護士は、経済的困難に陥っている人が多い一方で、生活保護制度への理解が不足しているとして、「客観的には最低生活水準以下なのに、生活保護申請をしないケースもあると見られる。注意が必要だ」と警鐘を鳴らしていた。

一方、2006年から震災直前まで岩手県釜石市の「釜石ひまわり基金法律事務所」所長を務め、震災直後から3年間、同市内で個人事務所を開いていた瀧上明弁護士は「過疎地域の構造的な問題が浮き彫りになってきている」と話す。

釜石市周辺では、震災復興による活気はあるが、地場産業の衰退や人口の流出が進んでいて、「震災復興が過ぎると崩壊する」と心配されている。更地がいつまで経っても更地のままで、まちづくりの将来像が見えないことが「ボディブローのように」効いていて、諦めや悪い意味での停滞を招いているのだという。

●老後の方程式「戸建て+年金」が崩れた

「被災地は、高齢化など日本中で起きている問題が震災で加速し『最先端地域』となっている。そんな被災地の問題を簡単に解決することはできない」と強調するのは、釜石市から50キロほど北にある宮古市で活動していた小口幸人弁護士だ。

小口弁護士は震災前の2010年から宮古市の宮古ひまわり基金法律事務所で所長を務めていて、被災した。2013年11月に東京に戻ったが、いまも被災者支援や立法提言などに取り組んでいるという。

「高齢者は『戸建て住宅を建てて、年金で生活をしていく』という老後のプランを描いていたが、震災で戸建て住宅がなくなってしまった。いまは賃料が無料の仮設住宅にいるが、今後、災害公営住宅に入って賃料が発生すると、この方程式が崩れてしまう。

私は震災直後から、国が家を建てて、被災者に提供すれば良いと言ってきた。仮設住宅を建てるのには、1戸あたり計1000万ぐらいかかる。(被災者が)災害公営住宅に入っても、家賃を払えなくなれば、結局は公のお金でまかなうことになる。

それなら、もっと充実した生活が送れるように、最初から建てたほうがコスト安だったはずだ」

このよう指摘しながら、「その決断が震災直後にできていれば、こんなことにはなっていない。これからも震災は起きる。そのとき、今回と同じ対応でいいのか」と問題提起していた。

弁護士には法律上、基本的人権を擁護し、社会正義を実現する使命がある。小口弁護士はそう指摘する。「世間は忘れても、絶対に被災地を忘れないこと。最後まで支援し続けるし、抗い続けることが求められている」。そうした活動は、弁護士だけではできないとして、被災地への支援を続けてほしいと訴えていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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