「なぜ、25歳や30歳になるまで立候補できないのですか」
そう問いかける若者たちの訴訟に、28歳の若手弁護士が挑んでいる。
弁護士登録から1年あまり。刑事事件や労災、DV、生活困窮者支援などに携わる向井佑里さん(28)は、学生時代から続けてきた公共訴訟の支援活動を通じて、「立候補年齢引き下げ訴訟」の弁護団に加わった。
一審は原告側の敗訴。しかし、向井さんは「裁判所は若者たちの問いに正面から向き合わなかった」と振り返る。
6月22日、東京高裁で控訴審の第1回口頭弁論が開かれる。若者たちが投げかけた問いに、司法はどう向き合うのか。向井さんに、この訴訟にかける思いを聞いた。
●「社会の問題だ」と世に問うことができる仕事
2025年4月から「市民の法的駆け込み寺」を掲げる都市型公設事務所、東京パブリック法律事務所に所属している向井さん。
これまで担当したのは、裁判員裁判が開かれた刑事事件や労災事件、路上生活者や障害者の支援、DV被害者の離婚・面会交流をめぐる家事事件など幅広い。
「依頼者の多くが経済的な困難を抱えている人や、障害があってコミュニケーションが難しい方、外国人の方など、司法にアクセスすること自体に困難を抱えている人たちです。
他の事務所では受けてもらえないような事件でも、私たちが引き受け、司法の力を届けていく。それが事務所の役割の一つです」
向井さんが弁護士を志したのは大学2年生のときだった。
ある法律事務所でのインターン中、セクハラ事件に関する記者会見に立ち会った。同様の被害を訴える声が次々と事務所に寄せられる様子を目の当たりにしたという。
「弁護士は個人の問題から出発して、『これはひとりの人の問題ではなく、社会の問題だ。社会が変わらなければならない』と世に問うことができる仕事なのだと感じました」
その思いは、学生時代から続けてきた公共訴訟の支援活動にもつながっている。
●トークセッションから生まれた訴訟
向井さんはロースクール在学中、公共訴訟支援に特化したウェブプラットフォーム「CALL4」でインターンを始めた。
当事者や弁護団と伴走しながら、訴訟の情報を市民にわかりやすく伝えるためのクラウドファンディングページを作成したり、若い世代に広く発信するためにInstagramの立ち上げ・運営などを担ったりしてきた。
その中で2022年、若者の政治参加促進を目指すユース団体「NO YOUTH NO JAPAN」と共同で、「U30が政治家になれる社会を作るには?」をテーマにしたトークセッションを企画した。
向井さんが企画したNO YOUTH NO JAPANとCALL4のコラボイベントの様子|認定特定非営利活動法人CALL4提供
当事者や弁護士、現役議員らが参加し、若者の政治参加について率直な意見を交わした。
そして、その場で生まれた問題意識が、後の「立候補年齢引き下げ訴訟」へとつながっていく。
●25歳、30歳になるまで立候補できないのはなぜか
2023年7月に提訴された「立候補年齢引き下げ訴訟」。
原告となったのは、NO YOUTH NO JAPAN代表の能條桃子さんをはじめ、当時10〜20代だった6人の若者たちだ。
現行法では、衆議院議員や地方議員は25歳以上、参議院議員や知事は30歳以上でなければ立候補できない。
原告側は、この制度が立候補する権利を保障した憲法などに反しているとして国を訴えた。
戦後約80年間変わっていない立候補年齢の規定によって、若者の直接的な政治参加が制限されている。
社会の多様な人々を代表するはずの議会に、若者世代を代弁できる議員が少ない。
一方、OECD加盟国では、38カ国中33カ国(2025年10月時点)で18歳または21歳から立候補が可能だ。
立候補年齢引き下げ訴訟の原告と弁護団|一般社団法人LEDGE提供(撮影:雨森希紀)
では、なぜ日本では25歳・30歳でなければならないのか。
裁判では、その合理的な理由を説明できる人は誰もいないのではないかと問いかけた。
これに対し、国側は「社会経験から出てくる思慮や分別に着目して」、選挙権を得られる18歳よりも高い25歳・30歳から立候補する権利を与えることは合理的だ、などと反論。
しかし、原告側は、若者には「思慮や分別」が足りないとする考え方に客観的根拠はなく、固定観念や偏見に依拠していると指摘する。
また、誰が政治家にふさわしいかは、立候補段階で年齢によって一律に制限するのではなく、有権者が選挙を通じて判断すべきだと主張している。
●「裁判所は若者たちの問いに向き合わなかった」
一審の第1回口頭弁論が開かれた当時、向井さんはまだ司法試験に向けて勉強していた。
傍聴席から見た原告たちの姿は、今も印象に残っているという。
「法廷で同世代の原告たちが意見陳述をしているのを見たとき、少し高いところに座った裁判官に向かって堂々と、私たち若者世代を代弁して思いを語ってくれていることに感動しました。
裁判官がしっかり目を見て、うなずきながら話を聞いてくれていたことも覚えています」
それから約2年後、向井さんは弁護士となり、今度は弁護団の一員として法廷に立つことになった。
最終口頭弁論では代理人席から原告たちの意見陳述を見守った。
「傍聴席からでは見えなかった原告たちの表情や緊張感が伝わってきました。堂々としているけれど、やはり緊張していて、ここまで積み重ねてきたものの大きさを感じました」
立候補年齢引き下げ訴訟・原告の能條桃子さん(中央)|一般社団法人LEDGE提供(撮影:雨森希紀)
しかし、東京地裁は2025年10月、原告側の請求を棄却する判決を言い渡した。
向井さんは、一審判決の最大の問題は、法定年齢に達していない人にも立候補する権利が憲法上保障されるのかという問いに、裁判所が正面から向き合わなかったことだと指摘する。
「あのとき、私たちを代表して声を上げてくれた原告たちの思いを、裁判所は受け止めてくれると思ったのに、何一つ応答しなかったように感じました」
●「あきらめなくていい」と感じる人が増えたら
6月22日に開かれる控訴審の第1回口頭弁論では、一審判決の問題点を指摘するとともに、職業選択の自由の観点からも主張を深めていく予定だ。
原告6人全員が再び法廷で意見陳述をおこなう。
一般社団法人LEDGE提供
向井さんも、自身が担当する事件に取り組む傍ら、裁判例のリサーチなど、弁護団の一員として控訴審に向けた準備を進めてきた。
「同世代の原告たちが訴訟を通じて声を上げ、行動している姿に接して、自分も頑張ろうとパワーをもらってきました。
個人の暮らしであっても、社会の制度であっても、『きっと良くなっていく』という希望を感じてきました。
同じように希望を感じて、『あきらめなくていい』と思う人が増えたらいいなと思います。
そして、年齢だけを理由に立候補を制限してよいのか。この問いに裁判所がどう向き合うのか、ぜひ注目してほしいと思います」
(この記事は提携メディア「LEDGE」による寄稿です)
取材・文/伊吹早織
撮影/雨森希紀、伊吹早織
編集/丸山央里絵