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2025年7月5日「大災害の予言」がもし"的中"していたら──メディアは正気を保てたのか
社会現象になっている『私が見た未来』(読者提供)

2025年7月5日「大災害の予言」がもし"的中"していたら──メディアは正気を保てたのか

2025年7月5日に日本で大災害が起きる——という噂がYouTubeやXなどで広がったことから、気象庁が地震の発生日時を予測することは不可能だとし、デマだと否定する事態になりました。

マンガの内容がきっかけとなり広がったものですが、結局のところ7月5日には何も起きず、予言は「外れ」に終わりました。

ただ、もしも「当たり」と言えるような大災害が本当に発生したとき、メディアはそれをどのように扱うべきなのでしょうか。

たとえば東日本大震災クラスの地震が発生していたら、「予言が当たった」「的中」と報じるメディアも出てくるかもしれません。

それは科学的根拠に基づかない「予言者」や真偽不明の情報を権威づけることにつながりかねません。

とんでもない予言が「当たってしまったとき」にメディアがとるべき態度について、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所准教授の水谷瑛嗣郎さんに聞きました。

自らの役目に自覚的であるべきで、安易に陰謀論を広めるようではいけない──。レガシーメディアの姿勢を問います。(企画:弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●感じたデジャヴ、ノストラダムスの影

たつき諒の『私が見た未来』という漫画をきっかけにした冒頭の「予言」は、40歳を間近に控えた私にとって、まるでデジャヴを感じる出来事でした。

この話をニュースで耳にしたとき、「1999年7月に恐怖の大王によって世界は滅亡する」というノストラダムスの大予言が、即座に頭をよぎったからです。

ノストラダムスの予言は、90年代当時に小学生だった私自身、なかば本気にしていて、なんとなく不安を心に抱いていたことを今でも覚えています。結局、1999年7月には特に何も起こらず、「予言」は外れました。

ただ、このような「噂」や「予言」をはじめとする不確かな言説が、時に社会に無視しえない影響を与える場合があります。今回の騒動でも、予言を受けて日本への旅行を取りやめる動きが相次いだことが指摘されており、まさに予言が、私たちの経済活動に影響を与えたとも言えるでしょう。

●オウム事件から続く「陰謀論」を信じてしまう心理

こうした社会への影響を与える不確かな言説の一つが、「陰謀論」(確たる証拠はないが、出来事の背景に特定の組織や人間などの陰謀があると決めつける考え方)です。たとえばオウム真理教の背景には、いわゆる終末論や陰謀論があったことは、よく知られています。

同教団が起こした1995年の地下鉄サリン事件は、地下鉄という密閉空間において化学兵器(サリン)を用いた衝撃的かつ凄惨な事件でした(そして、それ以前に起きた坂本弁護士一家殺害事件、松本サリン事件等も忘れてはならない事件です)。

もともと私たちが陰謀論を信じてしまう、さまざまな心理学的な要因が指摘されている他、社会に対する不満や不安が背景にあるとも言われます。

そして、噂、予言、陰謀論、流言飛語等の類の言説は、これまでも幾度となく私たちの社会に蔓延って(はびこって)きました。こうした言説を信じるのは、何も特異なことではありません。

●予言騒動に寄与したインターネットとSNS

ノストラダムスの大予言と今回の予言騒動を、メディア環境の観点からみたとき、大きく異なるのはインターネットとソーシャルメディアの存在です。

ノストラダムスの大予言の時期にインターネットはまだあまり普及しておらず(日本でのインターネット商用利用開始は1993年)、雑誌やテレビといった媒体が予言を拡散する主軸を担いました。

他方で、今回の予言騒動には、香港の有名な風水師インフルエンサーの存在があり、現地ではソーシャルメディアを通じてこの予言が広まっていたと言われています。

いまでは陰謀論も雑誌やテレビのオカルト番組だけではなく、ソーシャルメディア上で広がります。『となりの陰謀論』の著者である烏谷昌幸・慶應大教授は、最近の論稿でソーシャルメディアによる「陰謀論の日常化」を指摘しています(「陰謀論とSNS」三田評論ONLINE(2025年10月7日))。

●あなたの「注目」が金になる。アテンション・エコノミーの罠

インターネットの普及は、情報の発信に対する参入障壁を大きく軽減し、新規参入者を劇的に増加させました。そのうえ、ソーシャルメディア上では、アテンション・エコノミーと呼ばれる経済原理が強く働きます。

多くのソーシャルメディアは広告収益によって支えられており、私たちユーザーの「アテンション(注目)」をいかに惹きつけるかが鍵となるため、各事業者ともそれを奪い合うゼロサムゲームを繰り広げています。

ソーシャルメディアが、いいね!やシェアボタンを押すといったユーザーの行動や反応をフィードバックし、アルゴリズムがユーザーに最適化したコンテンツを届ける仕組みになっているのは、少しでもユーザーをプラットフォームに「粘着」させる必要があるからです。

そして、新奇性のある情報や驚愕的な情報、さらに感情を刺激する情報等は、ユーザーの反応を引き出しやすく、上記のような仕組みと相性が良いため、より拡散しやすいと言われています。そうして拡散していくものの中に、陰謀論が混じっている場合があるのです。

さらに、残念ながら広告収益を目当てに陰謀論を積極的に流布している人もおり、現在のメディア環境はそうした人々に経済的なインセンティブを与えてしまっています。陰謀論等をはじめとする不確かな言説にとって、まさに住み心地のよい環境が広がっていると言えるでしょう。

●レガシーメディアとソーシャルメディアはつながっている

ただし注意が必要なのは、ソーシャルメディアだけではありません。

最近では、新聞やテレビなどのレガシーメディアはソーシャルメディアと対立的に扱われることが多いですが、ソーシャルメディア上でレガシーメディアのコンテンツが、切り抜かれたり、拡散されたりすることもありますし、逆にレガシーメディアがソーシャルメディアで「話題」となっている事柄を取り上げることもあります。

これらのメディアはつながってもいるのです。それはつまり、ソーシャルメディア上でのアテンション・エコノミーの影響が、レガシーメディアにとっても無視できないことを意味します。

●我々は「偶然」に意味を見出しやすい…偶然を「奇跡」に仕立て上げるメディアの危うさ

このような現代のメディア環境において、ソーシャルメディア上での「話題」をレガシーメディアが取り上げる方法にも留意すべき点があります。

今回の予言騒動は、結局のところ外れたわけですが、仮に予言が「的中」したとしても、それは単なる偶然にすぎません(奇跡的な確率であることは間違いないでしょうが)。

しかし、私たちには、偶然の一致にもかかわらず、何かの意味を過剰に見出してしまう傾向があるとされています。

そのため、レガシーメディアで「予言が的中!」といった扱われ方をした場合、本来、ただの偶然にすぎない事柄が、さも関係性があるかのように扱うことで、予言に「お墨付き」を与えてしまいかねません。

●テレビ番組やコタツ記事の問題点

また、偽情報の拡散に関するものですが、コーネル大学のクレア・ウォードル准教授が提唱した「増幅のトランペット」は、レガシーメディアが偽情報を増幅し、拡散してしまう危険性について指摘しています。

レガシーメディアの影響は、私たちの社会においてまだまだ大きいのです。こうした観点から言えば、特にアテンション・エコノミーとの距離が近いワイドショーやコタツ記事で、予言(の的中)がセンセーショナルに取り上げられる可能性があることには注意が必要でしょう。

●陰謀論を増幅しうる自らのリスクを「レガシーメディア」が自覚すべき

さらに、先ほど述べた通りソーシャルメディアは、アルゴリズムなどの仕組みによって、感情を刺激する情報や新奇性のある言説に実態以上の力を与えてしまう側面があります。

ソーシャルメディアのなかに潜む陰謀論を、レガシーメディアが安易に「ソーシャルメディアの声」として報じることによって、小さな火種に過ぎなかった陰謀論を増幅してしまう可能性があります。

放送事業者を含むレガシーメディアには、日本国憲法21条に基づき、報道・放送の自由が与えられています。これは国民個々人のための表現の自由と異なり、国民の知る権利を充実させて民主主義をより豊かにするという職責を果たすために与えられたものです。

不確かな言説が気軽に日常を跋扈する時代だからこそ、レガシーメディアには、ソーシャルメディアとつながっているということを意識した、より良いコンテンツの制作を担ってほしいと思います。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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