食べ物への異物混入が明らかとなり、大きな騒動になるケースが続く。
「すき家」の味噌汁にネズミが混入した事案は記憶に新しいが、発生から公表までに2カ月を要した。株価も一時急落し、全店一斉休業を余儀なくされた。先月も「天ぷらに吸水シート」「ピザにカタツムリ」と大手飲食店の混入事案が発表され、大きく報道されている。
食品への異物混入を起こさないことが何よりであるものの、発生した際の公表の判断を誤った場合に、企業は信頼を失い経営的に大きなダメージをうけることもある。一方で、再発防止策を講じ、真摯に情報を開示することで、信頼の維持につながることも。
飲食・食品業界の店舗責任者や広報担当者を対象としたセミナーが4月に開かれた。企業の不祥事対応に詳しい弁護士は「健康被害につながるケースでは早期に公開すべき」とした。
●食品の異物混入は「炎上リスクを伴う危機管理の問題」
4月21日開催のセミナーは日本リスクコミュニケーション協会(RCIJ)が主催した。飲食業界における異物混入と企業側の対応の事例が紹介され、問題発生時に企業側がとるべき対応策について知見が共有された。
すき家のネズミ混入では、1月の発生直後に店を一時閉鎖して再発防止策がとられたものの、3月末の公表まで約2か月を費やした。
結果として対応が遅れた印象を与え、SNSのいわゆる「炎上」を引き起こし、株価も一時的に下落するなど経営にも影響が生じている。
異物混入は単なる品質問題にとどまらず、情報拡散による炎上リスクを伴う危機管理の問題だと強調された。
公開のタイミングと透明性が企業の信用に大きく影響する場合がある。セミナー参加者からは、情報公表の判断をめぐって質問が寄せられた。
公表にまで踏み切らず消費者との個別対応を進めるべきか。それともプレスリリースや記者会見で公表すべきか——。
●「判断基準」異物混入の情報を公開すべきか
セミナーの講師をつとめた鈴木悠介弁護士(西村あさひ法律事務所・外国法共同事業)は、情報公開の判断基準は「人の生命、身体の安全に影響があるかどうか」「不特定かつ多数の人が興味関心を持つかどうか」の大きく2つと説明。
品質不正を把握した際の企業の対応について判断基準を示した2024年1月26日の大阪地裁判決(旧東洋ゴム工業による免震ゴム性能の偽装事件をめぐり、当時の役員らの経営責任を認めた株主代表訴訟の判決)などが参考になると紹介した。
このような基準を踏まえた判断の結果として、事案によっては、関係者への個別説明を尽くすことを前提に、ホームページ上などで公表しないという判断も、必ずしも「隠蔽」にはあたらないケースもあるとの考えを示す。
しかし、いざ公表を決めたとしても、情報発信を統一できない場合には混乱を招きかねないと注意を呼びかけ、公表にあたっては、正確性と迅速性のバランスが求められる。
ただし、とりわけ飲食業界では、多少の混乱が予想されるとしても、健康被害につながるような問題が生じた場合は早期に公表すべきと指摘した。
●平時に備える 情報公開・情報共有のリスク管理規定作成
参加者からは「公表前の段階で、社内にどこまで情報を共有すべきか」という質問も。
鈴木弁護士は「会社として把握した初期の段階では、情報管理は極めて限定したほうがよい。インサイダーリスクのほか、最終的に合理的な理由があって『公表しない』と判断したケースであっても、その後の事情を理解しないままの社員が『隠蔽した』と外部に告発するリスクも考えられる」と指摘する。
また、平時からリスク管理規定を作り、どのようなチームで調査をし、どこまでの範囲に情報を共有するかについて、ルールを作って備えるべきとした。
セミナーから数日の間だけでも、大手チェーン「はま寿司」(天ぷらに「吸水シート」が混入/23日発表)、ファミレス「ジョイフル」(ピザにカタツムリが混入/24日発表)が異物混入を相次ぎ発表し、それぞれメディアに大きく報じられた。
(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)