2月9日に行われた日本弁護士連合会の次期会長選挙で渕上玲子弁護士(東京弁護士会、35期)が当選を確実にした。女性が会長になるのは、1949年の発足以来初めてで、法曹3者のトップとしても初。
1954年8月、長崎県西海市の大島生まれで、弁護士歴41年にわたる。9日に弁護士会館で行われた会見では「今頃になって“初の女性リーダー”?と言う方もいます。これまでの景色を変えなければならない。私が多様性を体現する存在として、全身全霊で取り組む」と決意を語った。
●「冷たい子」と間違われ…
渕上氏が法曹を目指すきっかけになったのは、5歳のころ。出生届に間違えて「冷子」と記され、島から裁判所の佐世保支部に赴き、名前を変更する手続きを行ったことだ。「『あなたの字を書いてごらんなさい』と言われ、王篇の『玲子』と書きました」。幼いながらも、権威のある裁判官の姿に感銘を受けた。
親の転勤で千葉の高校に進学、一橋大学卒業後に司法浪人も経験しながらも1980年に合格した。35期は修習生のうち女性が10%を初めて超えた年だった。しかし、いまだ女性というだけで差別もあった。「男性がすぐ決まっていくなか、就職には苦労して相当ショックでした」
それから40年超。いまだ日弁連の会員の女性比率は約20%(2024年1月現在)にとどまっている。法曹志望者自体も減少している。
「弁護士はフリーランスで、不安を持つのは間違いありません。私も8年目に独立して、案件を選ばず一生懸命に向き合ってきました。裁判官や検察官に行ってしまうのは残念です」
女性の中には、司法試験に使う時間を考えて諦めていく人もいたとし、ロースクールや法曹コース(3+2)導入で改善されていると指摘。その上で、小中高生の法教育の場で法曹の魅力を伝えていきたいとした。
「災害のことになると熱くなっちゃう」と話す渕上弁護士(2024年2月9日、弁護士ドットコム撮影)
●災害法制に熱い思い
会長として「力を入れなければならない分野」として、最初にあげたのは裁判手続きのIT化への対応だ。研修や技術的サポートを通じて、変化の激しい時代に対処していくとした。また「家庭裁判所の機能充実」も挙げた。「普通の街弁として離婚など多数扱ってきました。家裁ではいまだ物的・人的設備が不十分」だとして改善を訴えた。
実現したいこととしては「選択的夫婦別姓」を挙げた。「今は女性が20年以上慣れ親しんだ姓の改正を強制されています。人格権の問題だと裁判所に理解してもらい違憲判断をあおぐか、法改正につながるよう議員に要請を続けます」
また、これまで会務として長く携わってきた「災害対策」についても言及。阪神淡路大震災や東日本大震災、新潟中越地震などの現場対応に当たってきたため「災害のことになると熱くなっちゃうんです」と言い、弁護士としては災害時の相談対応にとどまらず、現場で浮かび上がってきた法律の不備を訴えるべきだと説明。災害救助法改正を求めるなど災害法制についても日弁連として発信していく意気込みを見せた。
●合格者数1500人程度を維持
会長選で対立候補となった及川智志弁護士が掲げていたのは、法曹人口の抑制だ。司法試験合格者数について、日弁連は2022年度の基本方針で「1500人程度」としている。
渕上氏は「地方に行く弁護士が減り、大都市に偏在するという問題もあるが、就職に関しては良い環境は続いています。訴訟だけでなく、弁護士の活動領域が拡大している情勢のなかで、総合的にみて基本方針を支持します」と話した。
【プロフィール】 渕上玲子(ふちがみ・れいこ)弁護士
1977年、一橋大学法学部を卒業。1980年に司法試験2次試験に合格、1983年に弁護士登録した。1996年に日比谷見附法律事務所を開設。2017年度に日弁連副会長、東京弁護士会会長、2020〜2021年度に日弁連事務総長を務めた。
日比谷見附法律事務所 https://www.m-hibiya.com/