日本の税制にもの申す組織、民間税制調査会(民間税調)が12月26日、2024年度の税制改正大綱を論じる最終シンポジウム(オンライン)を開いた。民間税調は弁護士や大学教授など税のエキスパートらでつくり、毎年大綱が出る12月に、中身について見解をまとめている。最終シンポでは「税は政治の産物で、私たちの決断で決まります。もっと積極的に関与しましょう」と呼び掛けた。(ライター・国分瑠衣子)
●アベノミクスへの疑問を背景に発足
民間税調は、安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」への疑問を背景に、2015年春に発足した。難しく設計され、分かりにくい税について、主権者である納税者の目線で分析し、サイトやYouTubeなどで提言してきた。租税法の専門家の三木義一・青山学院大学名誉教授と、経済学者の法政大学・水野和夫教授が共同代表を務める。
今回を最後としたのは、メンバーが政策提言の場など活動の幅を広げることができるように考えたためという。
●大綱のポイントは賃上げ税制、投資促進、少子化対策
税制改正は、与党の税制調査会が中心になって決める。翌年度の増税や減税などの税制改正の方針をまとめたものが税制改正大綱だ。2024年度の税制改正大綱のポイントは、賃上げ税制、国内投資の促進、少子化対策の3つだ。
大綱の総括で、香川大学の青木丈教授(租税法)は「風邪をひいてしまい、簡単にまとめたいと思っていたところ、ありがたいことに、大きな改正はないので、簡単に済ませることができると思います」と冗談から入った。
97ページに及ぶ大綱は「所得税と個人住民税の減税」で始まり、「防衛費の財源確保のために加熱式たばこの増税を検討する」という内容で終わる。
青木教授は「岸田文雄首相は『増税メガネ』などと呼ばれ、減税を打ち出しましたが、支持率が回復しませんでした。防衛費の財源確保のために増税を考えているのに、減税することが国民に見透かされてしまったと言えます」と解説した。
大綱の目玉は、所得税3万円と住民税1万円の定額減税だ。配偶者や扶養親族も減税の対象になる。減税の時期は2024年6月からで、給与所得者の場合は、源泉徴収額から減税分を差し引く仕組みだ。「所得税は暦年課税なので、通常は(大綱を出した年度の)翌年から反映します。しかし、今回は大綱の当該年度からなので珍しいやり方です。(会社など)源泉徴収義務者は実務的に大変ではないかと予想されます」(青木教授)
●企業交際費の引き上げ「物価高は飲食費に限らないのに、理解できない」
シンポジウムでは「企業が使う交際費の引き上げ」もクローズアップされた。大綱では企業が接待などに使う交際費のうち、経費扱いにして非課税にできる上限を、一人あたり5000円から1万円に引き上げた。
物価高で飲食費が上がっていることが理由だが、青木教授は「なぜ交際費だけを取り出すのか。物価高は飲食費に限らないわけですから、交際費のこの部分だけ取り出すのか私には理解できませんでした」と指摘した。
シンポジウムでは、専門家が税と社会保険料の関係や、国際課税なども取り上げた。
●三木氏「税は基本的に政治の産物で、私たちの決断で決まる」
三木義一氏は「今の実態税制は、昭和税制の骨格が維持されたまま消費税だけが拡大しています。時代に対応したものになっていけるのかが疑問です」と話し、「税は基本的に政治の産物で、私たちの決断で決まっていくものです。もっと積極的に関与しなければいけません」と呼びかける。
水野和夫氏は「税制は政治がしっかりしていないと、実行に移せません。政権の力がどんどん弱くなる中で、若い人は色々な意見を主張してほしいと思っています」と締めくくった。