「うちの犬が他の犬に噛まれてトラウマを負った。許せない」。弁護士ドットコムに、このような相談が寄せられている。
相談者によると、“事件”が起きたのは、愛犬のココをトリミングサロンに預けた後だったという。順番を待っていたココに別の犬・ムギが噛みついた。ココはケガを負い、病院に運ばれたとのことだ。ムギの飼い主が目を離している間に起きたという。
事件以来、ココは他の犬をこわがり、散歩にも行けなくなったという。ムギの飼い主に慰謝料を請求することはできるのだろうか。細川敦史弁護士に聞いた。
●慰謝料請求「ハードルかなり高い」
ーー相談者の犬・ココにケガを負わせたムギの飼い主に損害賠償を請求することはできるのでしょうか。
まずは、相談者の愛犬にお見舞いを申し上げます。別の犬の飼い主が目を離した隙に相談者の飼い犬に噛みついたなどのケースであれば、相手の飼い主は相談者に対し、動物占有者として損害賠償責任(民法718条)を負うことになります。
ただし、相手の飼い主に法律上の責任があるということと、どこまでの損害を賠償する義務があるか(相談者がどこまでの損害を賠償してもらえるか)は、別の問題です。
噛まれたことによるケガを治療するための医療費は賠償する必要があると考えられます。ケガが治るまでに相談者が動物病院に支払った費用は、原則として加害者に支払ってもらうことができます。
ーー相談者は相手の飼い主が許せず、慰謝料も請求したいようです。
慰謝料請求は、そう簡単な話ではありません。裁判所は、愛犬が心に傷を負ったことで一般的に飼い主が受けると考えられる精神的苦痛を金銭的に評価します。そう言われても誰も決められないのですが、実際には、過去の類似の裁判例などから、ある程度の相場の範囲を探っていくことになります。
ただし、愛するペットがある日突然いなくなる死亡事案でさえ、裁判所では20〜30万円程度の慰謝料しか認めない事案が多く、60万円の事例がいくつかみられる程度です。
今回のケースは、幸いなことですが、脚を切断するなど外見上明らかな後遺障害が残ったわけでもありません。言葉を話せない犬のトラウマについて、第三者から見て簡単に認められるものではないように思います。他の犬を怖がるようになった、散歩に行けなくなった、など事故前後の変化を第三者にどのように説明するかは工夫が必要です。
「見てもらえばわかる」といっても、裁判所には通用しません。愛犬がトラウマを受けたことによる飼い主の慰謝料請求は、裁判所で「認められない」とまではいえませんが、ハードルはかなり高いと考える必要はあるでしょう。
●コスト問題、弁護士費用特約も
ーーそれでも慰謝料請求をしたい場合、どのような点に注意すべきでしょうか。
一般的に、民事訴訟をするには弁護士に依頼する必要がありますが、その費用は相談者が負担しなければなりません。
費用の問題をクリアする方法のひとつとして、保険があります。日常生活上の事故の被害者になったときに、加害者に請求する際の弁護士費用を保険会社が出してくれるというものです。意識的に加入している人は少ないと思いますが、自動車保険や自宅の火災保険、年会費を払っているクレジットカードに弁護士費用特約がついていることもあります。大事なことなので、最初によく調べてみる必要があるでしょう。
ーー弁護士費用の特約が見当たらない場合は、どうすればよいでしょうか。
その場合は、ご自身で民事調停あるいは示談あっせんをおこなう民間の紛争解決機関(各地の弁護士会内にもあります)などに申立てをすることになります。
これらは話し合いで解決を図る手続きなので、自分の言い分だけを主張してもまとまらないことが往々にしてあります。仲介者(調停委員、あっせん委員)と上手にコミュニケーションを取りながら、慎重に進める必要があるでしょう。