誕生日ケーキに頼んでおいたメッセージプレートが乗ってなかったのが許せない——。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者は、友人の誕生日を高級レストランで祝った際、「メッセージプレートを乗せたケーキを出して欲しい」とあらかじめお願いしていましたが、店側が用意するのを忘れてしまったようです。
当人らにとってはかなりサプライズな文面でオーダーしていたらしく、その場で書き直してもらっても意味がないとし、「まったく意味のない会食となった」と怒り心頭の様子です。
台無しとなったケーキの代金だけでなく、「食事代全額も返金して欲しい」という相談者ですが、認められる可能性はあるのでしょうか。大和幸四郎弁護士に聞きました。
●食事代全額の返金は「できない」
——ケーキ代の返金を求めることはできるのでしょうか。
相談者が「メッセージプレートを乗せたケーキを出して欲しい」とあらかじめお願いしていたにもかかわらず、店側が用意するのを忘れたというのは重大な過失といえます。
民法415条1項は「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる」と定めています。
メッセージプレートのつけ忘れは「債務の本旨に従った履行」とは言えず、債務不履行による損害賠償請求が可能だと思います。
——相談者にとっては「まったく意味のない会食」となってしまったようですが、食事代の返金を求めることはできるのでしょうか。
相談者は意味のない会食となってしまったことについて、精神的苦痛に対する損害賠償、すなわち慰謝料として、食事代全額の返金を求めていると考えられます(民法710条)。
しかしながら、慰謝料が認められるのは「不法行為」に基づいて生じた精神的苦痛などの「非財産的損害」に対してです。いくら嫌なことや辛いことがあって精神的に傷ついたからといって、直ちに慰謝料が生じるわけではありません。
慰謝料が発生する例として、個人間における侮辱や暴言、誹謗中傷、罵詈雑言などがありますが、今回のケースはそれに当たらないので食事代全額の返金は認められないと考えます。
別の見方として、意味のない会食となったことについて、相談者が「債務の本旨に従った履行」がなかったとして、食事代全額について争うことも考えられます。
ただ、食事は問題なく済んでいるならば、食事提供については通常「債務の本旨に従った履行」がなかったとまでは言えないのではないでしょうか。
相談者にはお気の毒ですが、いずれの法律構成によっても、食事代全額の返金はできないと思います。
もっとも、高級レストランということで、店側がメッセージプレートの不手際を認めて、自主的に食事代を返金することはあると思います。
個人的には、店側のメッセージプレートのミスがまさに「サプライズ」となり、きっと忘れられない誕生日になったことと思います。時が経つと、逆にとんでもないことの方が記憶に残り、笑えるものになりうるかもしれません。