東海テレビ放送(名古屋市)は11月25日、愛知県名古屋市のマンションで男性の遺体が見つかった事件で、死体遺棄事件の容疑者として放送した女性が別人だったと発表した。
「めざましどようび」など、全国放送を含むニュース番組の中で、女性の顔写真を計8回放送した。写真を入手したのは報道番組に携わる同社の社員だという。
「大変なご迷惑をおかけした」と謝罪する同社は11月27日、弁護士ドットコムニュースの取材にミスが発生した経緯を検証していると説明。報道被害を受けた当事者の意向も踏まえながら、検証結果をなんらかの形で公表する意向も示した。
弁護士は「容疑者」として顔写真を誤って報じた場合、民事上の責任だけでなく、名誉毀損罪など、刑事上の問題も十分に考えられると指摘する。
●顔写真SNSから入手「 本当の容疑者を知るとされる複数の関係者に確認した」
同社によると、11月24日夜8時50分ころ、ローカルのニュース番組で別人の写真を容疑者として最初に紹介した。その後、「めざましどようび」など全国ネットの番組を含めて、11月25日午前11時56分ころまでに計8回放送したという。
容疑者として放送された女性本人からフジテレビに連絡があり、東海テレビが誤りを認識したのが、11月25日午後。同日17時40分ころのニュース番組で初めてお詫びと訂正をおこなった。それ以降、公式サイトでの公表のほか、複数のニュース番組で訂正を繰り返し放送しているという。
同社によると、別人の顔写真はX(旧ツイッター)を通じて入手したもの。
「現状の調査では、報道部の記者が写真を何らかの方法でXから入手し、本当の容疑者を知るとされる複数の関係者にその写真を確認したうえで番組で出したが、結果的に間違っていた」(東海テレビ)
同社では、殺人の疑いも視野に入る死体遺棄容疑で容疑者として扱った女性に対して、謝罪・説明をおこなっていく考え。
「間違いで大変なご迷惑をおかけしてしまったご本人への謝罪と説明はもちろん、どこまで対応をするか社内でも検討しております。
一番やらなければいけないのは、今回なぜこうなったのか詳細を明らかにしないといけません。ご本人に説明するにも、再発防止策を決めるにも、まずは詳細を明らかにしないといけない。
また、当事者のご意向も踏まえながら、調査報告書などの発表まで考えたい。その責任もあると考えています」(東海テレビ)
こうした写真を使用する場合の確認方法、チェック体制の検証が重点的になされる見込みだ。また、過去に同様の事案があったか確認中だという。
●名誉毀損や肖像権・プライバシー権侵害の問題になる
東海テレビはミスによる影響は重大と考えているようだ。刑事事件の容疑者として顔写真を放送されることには、民事・刑事の側面からどのような法的問題があるのだろうか。インターネットをめぐる権利侵害にくわしい清水陽平弁護士に聞いた。
——今回のケースではどんな問題が考えられますか
死体遺棄をした「疑い」、「容疑者」とされており、確定的に犯罪行為をした者であると指摘がされているわけではないものの、少なくともこのような報道がされた場合、「犯人ではないかもしれない」と捉える人はほぼおらず、「犯人で間違いないだろう」と捉えるのが社会一般の認識ではないかと思います。
そうすると、この認識を前提に、どのような法的問題があるかを検討することになります。
犯罪行為をしたであろうという指摘は、社会的評価の低下を招くもので、名誉毀損の問題となります。ほかにも、顔写真が使用されている以上、肖像権やプライバシー権の侵害も検討することができます。
しかし、いずれの構成によるとしても、そもそも無関係で、掲示する必要がなかった写真だったわけなので、違法性阻却事由や掲示を正当化する理由はないといえます。
また、真実と信じる相当な理由がある場合には責任阻却(故意・過失がない)とされ、名誉毀損が否定される場合がありますが、少なくとも現状の情報をもとにすると、今回のケースでは認められない可能性は高そうに思います。
写真を入手した方法が「Xから」であり、それ自体は取材のきっかけとして悪いわけではないですが、少なくとも確実な情報源からのものとはいえません。
また、「本当の容疑者を知るとされる複数の関係者にその写真を確認した」ということですが、具体的にどのような者に、どういう確認をしたのかが明らかでなく、十分な確認がされていたということは難しい印象があります。
したがって、少なくともテレビ局側は、民事上の責任として賠償責任を負うことになります。
民事上の責任として慰謝料は当然として、番組の内容がネット上に拡散するなどしている場合、顔写真など削除にかかる費用などの賠償が必要ではないかと思います。
また、刑事上も名誉毀損罪が成立する余地が十分あるといえる事案です。
報道機関においては、すぐに情報がネットに出回り、デジタルタトゥーとして残り続けてしまう時代であることを認識していただき、実名報道を含め、報道の在り方について今一度考えていただくことが必要ではないかと思っています。