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不適切な指導による「子どもの自殺」は根絶できるか? 遺族の要望で少しずつ改善する役所の姿勢
青山文科副大臣らと面談後に、参議院議員会館で会見した「安全な生徒指導を考える会」メンバー(撮影:渋井哲也)

不適切な指導による「子どもの自殺」は根絶できるか? 遺族の要望で少しずつ改善する役所の姿勢

「不適切な指導をきっかけにした自殺は『防げる死』です」

教員による不適切な指導をきっかけに自殺した子どもの遺族らでつくる「安全な生徒指導を考える会」(考える会)は10月30日、青山周平・文部科学副大臣と面談した。依然として、児童・生徒の自殺原因の6割が、「不明」となっていることから、自殺が起きたときの調査指針の周知徹底と指針の見直しを求めた。

このあとの記者会見で、「考える会」は、青山副大臣が指針の見直しを検討すると発言したことを紹介するなど、文科省として前向きな姿勢を見せたことを明らかにした。盛山正仁文部科学大臣も翌日、「必要に応じて国の指針の見直しに向けた検討」と言及している。

これまでも「考える会」の要望によって、生徒指導の基本書「生徒指導提要」に「不適切な指導」という言葉が入り、その結果、「自殺した児童生徒の状況」の項目に「体罰、不適切指導」が追加されることになった。

冒頭の発言は、「考える会」のメンバーの思いだ。その問題意識がすべて反映されているわけではないが、少しずつ改善の兆しも見えてきたようにも思える。(ライター・渋井哲也)

●「子どもの命を守りたいという思い」は同じだ

文部科学省「背景調査の指針」より 文部科学省「背景調査の指針」より

「今の"背景調査の指針"だけでは、不適切な指導のような問題は、学校が真摯に向き合うことがなかなか難しい。調査が誠実に実施されるにはどうしたら良いのか検討して、具体的に見直してほしい。その場合には、遺族にもヒアリングをしていただきたい」

こう話すのは「考える会」のはるかさん。「現在の"指針"では、なかなか調査委員会が立ちあがりにくい」とも指摘する。

2013年3月、弟の悠太さん(当時16歳)が亡くなった。顧問による不適切な指導がきっかけだったが、調査委員会が設置されず、学校側は「指導は適切だった」と結論づけた。そのため、裁判にまで発展し、札幌高裁で「不適切だった」と判断された。

「青山副大臣からは、子どもの自殺の要因分析については、こども家庭庁とともに取り組んでいくという話がありました。背景調査の指針は、子どもの自殺の調査に関する唯一の指針です。見直しの要望は難しいと思っていましたが、どうしたら改善できるのか、誠実に答えてくださって、子どもの命を守りたいという思いは同じだと感じました」

●"指針"の存在すら教えてもらえない事案も

一方で、調査委員会が設置されたとしても、"指針"について説明されず、その存在を第三者から聞いたというケースがある。鹿児島市立中学校で2018年9月、夏休みの宿題忘れを理由に職員室内で大声で叱責されて、帰宅後に自殺した男子中学生の遺族だ。

「学校側はどうして教えてくれなかったのか。その時点で、学校への信頼度がゼロになりました」

"指針"には、個別事案ごとに「その都度検討することが重要」とあるが、結局、遺族が求めても、個別の要綱は作られなかった。ただし、調査委は「担任教諭による大声での叱責など、個別指導が引き金になった」と認定している。

●副大臣「不適切な指導の根絶を目指す」

今年10月公表の「問題行動調査」で、初めて"指針"の運用状況の調査がおこなわれたことがわかった。この調査は、「考える会」がこれまでに要望していたものだ。青山副大臣は「課題が浮き彫りになった。この調査は、今後も引き続き調査する」と述べ、その姿勢を明らかにしている。

調査によると、2022年度の児童生徒の自殺者数は411人で、学校側が資料に基づいて整理する「基本調査」は全件でされていた。しかし、第三者を含めた「詳細調査」に移行したのは、いじめ重大事態調査に移行したものを含め、わずか19件(4.6%)に過ぎない。

これでは「原因不明」が約6割になるのも不思議ではない。青山副大臣は「不明というのはどういう経緯でそうなっているのか、きちんと調べなければいけない」と述べたという。

詳細調査への移行率が低い一因は、遺族への説明の有無だ。詳細調査の説明や希望の有無など、遺族に説明した件数は244件(59.4%)で、約4割が説明されていないことになる。

「考える会」としては、チェックリストを作り、学校と遺族の間で説明に必要な項目を確認していくことを求めた。青山副大臣も、チェックリストの作成など取り組みを強化していくと話したという。

さらに現在、「体罰調査」について、一部の自治体は「不適切な指導」を含めて調査している。そのため、「考える会」は、全国的にも「不適切な指導」を含めるように求めている。

これに対して、文科省側は、現在の体罰調査は「公立学校」のみだが、昨年度分の調査から国立と私立を含めたとして、年度末に公表すると回答。「不適切な指導」を含めることは明言されていないが、青山副大臣は「体罰や不適切な指導の根絶を目指す」と述べたという。

●文科省と前向きな議論

副大臣面談後、「考える会」は、文科省・児童生徒課長らと面談して、さらに詳細について話し合った。

「考える会」によると、前提となっていない再調査の実施や調査を首長部局でおこなうことについての要望は、指針の見直しをする際の検討事項とするとされたという。

そのほかにも、「背景調査の指針」の運用調査は、課題をより具体的に抽出するために調査項目を追加することなどについても、前向きな議論があったという。

詳細調査に移行する際は、学校生活に関係する要素として、「いじめ、体罰、学業、友人等」とあるものの、「不適切な指導」の文言は明示されていない。不適切な指導を背景とする自殺の調査では、学校等が詳細調査の対象と認識できていない可能性も想定できる。

しかし、別の文脈では「教職員からの指導」ともあり、「不適切な指導」が背景にある(と疑われる)場合の調査を否定はしていない。この点については、文科省側は、見直しの際には「誤解を避けるため、わかりやすく表現していく」と回答したという。

また、学校で転落死した場合、警察の捜査結果として、自殺以外の場合があるという理由のため、学校側は"指針"による調査をおこなわないことがある。しかし、「考える会」は、自殺の疑いがあれば、学校側が調査をすべきだと要望した。

これに対して、文科省は、調査対象は「自殺又は自殺が疑われる死亡事案」であり、警察ではっきり自殺とされなくても、遺族が自殺と疑っている場合は"指針"に基づく調査対象になりえると説明した。

「不適切な指導が背景にある児童・生徒の自殺については、調査の仕組みが整っていないために、しっかりと向き合っていただくことを願っています」(悠太さんの母)

(*)背景調査の指針では、図のような基本調査から詳細調査までの流れになっている。

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