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性暴力やハラスメント「被害者の負担を軽くしたい」 東京藝大の学生らが「支援団体」立ち上げ
東京藝術大学(route134 / PIXTA)

性暴力やハラスメント「被害者の負担を軽くしたい」 東京藝大の学生らが「支援団体」立ち上げ

東京藝術大学の現役学生と卒業生が、学内で性暴力やハラスメント被害に遭った人をサポートする団体「V.W.」( @VW_GEIDAI )を立ち上げた。

団体を立ち上げたのは、現役学生の薛大勇(せつ・だいゆう)さんと卒業生で作家の林果林さん。

2人が実際に被害を受けたり、身近で被害を見聞きしたりする中、被害者である学生の負担があまりに大きいと感じたからだった。

学内には、ハラスメントの相談窓口が設置されているが、被害者は周囲に被害を言えないまま、1人で何度も大学側から聞き取りされたり、書面を作ったりしなければならないケースが少なくない。

中には、被害によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症して、大学側に申し立てることをあきらめてしまう学生もいるという。

団体創設メンバーの2人に、学内のハラスメント問題と今後の活動を聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●食堂の職員から「嫌味」を言われた友人

「V.W.」を立ち上げのきっかけとなったのは、ツイッターだった。

藝大・美術学部先端芸術表現科の薛さんが今年6月、個人のアカウントで、取手キャンパス(茨城県)の食堂で、友人が体験したことを投稿したところ、ツイートは大きな反響を呼んだ。

この食堂は、NPOが運営しているが、当時、経済的に余裕のない学生を支援するため、定価580円の日替わり定食は、学生自身が値段を決めて支払える制度があった。

薛さんの友人も利用していたが、家庭の事情から経済状況が悪かったため、定価を下回る200円を支払っていたところ、食堂の職員から「金額が少ない」と嫌味を言われたという。

結局、友人はこの食堂を使えなくなってしまった。

「友人はショックのあまり、泣いていました。制度自体は良いものですが、友人が受けた被害は、あってはならないことだと思います」(薛さん)

●性被害からPTSDを発症した友人

薛さんは台湾出身。兄も藝大の卒業生で、自身も藝大に惹かれて入学した。

「以前から、兄から聞いていた学内のエピソードに違和感を持つことがあったのですが、そのころはまだハラスメントという言葉がそこまで浸透していなくて、世間的にも批判されないような風潮があったと思います」

昨年、薛さんは友人が学内の学生から性被害に遭ったことを打ち明けられた。その友人を支えるため、一緒に学内外の相談窓口に行ったが、被害の申立てを断念したという。

友人がPTSDを発症して、調査に耐えられる状況ではなかったことや、学内にいる加害者からの報復を恐れてのことだった。

「友人は学校に安心して学校に通うことができず、休学してしまいました」と薛さんは話す。

こうした経験から、薛さんが今年8月、学内での性暴力やハラスメントが深刻な状況にあることをツイッターで投稿したところ、何人もの学生や卒業生から「私も被害に遭った」というメッセージが届いた。

●被害を友人にも打ち明けられず、相談の負担大きく

予想を超える反響を、薛さんは真摯に受け止めて、メッセージを送ってきた卒業生で、作家の林果林さんとともに、被害者を支える活動を始めることにした。

林さんも在学中、学内の男子学生からデートDVを受けた経験があるという。林さんは男子学生からの暴力をきっかけにPTSDも発症していた。

林さんによると、同時期、加害者の男子学生は別の女子学生にも同じような暴力をふるい、女子学生は刑事告訴までしていたという。その後、男子学生と女子学生の間に示談が成立して、告訴は取り下げられた。

女子学生が卒業するまで、男子学生は停学処分になっていた。林さん自身も大学側から「林さんが卒業するまでは大学に通わせない」という説明を受けていたため、安心して大学に通っていた。

ところが、ある日、女子学生の卒業と同時に、男子学生の停学が終わることを知らされたという。

「被害のことは藝大の友人にも打ち明けていなかったので、1人で対応しなければなりませんでした。いつ加害者とキャンパスで接触するのかわからない中、教員や窓口に話したり、弁護士さんに相談したり、被害状況の文書をまとめたり、本当につらかったです」

大学側に申し立てたところ、林さんの在学中は、男子学生はオンラインで講義を受ける措置がとられたという。

●「被害者を守り、支援するネットワークを」

薛さんと林さんが痛感したのは、性暴力やハラスメントに遭ったとき、被害者にとって大学に申し立てをするまでの負担が大きいということだった。

男子学生が復学する際、林さんは、ハラスメント調査委員会を開いてもらうよう大学側に希望を出した。しかし、被害そのものが数年前のことで、物的証拠が不十分だとして、却下されている。

「暴力を受けた痕の写真や、当時のやりとりなどは、加害者と別れる際に気持ち悪くて破棄していました。記憶をたどって、何月何日にこういうことをされたと被害の文書をまとめましたが、その作業も本当につらいものでした」

林さんが、学内の友人に助けを求めることに躊躇したのには理由がある。藝大の教員の多くが著名な作家やキュレーターであり、卒業後に学生が作家として活動をしようとする際に、教員との関係性が大きく影響するからだ。

「もしも被害を訴えて教員と対立してしまった場合、将来にも関わってくるかと思うと、学生が自分の意見を言うことは難しいです」

林さんのもとには、同じような被害に遭ったという後輩から相談が来た。「私の問題は100%の解決はできませんでしたが、自分と同じような被害に遭った人たちをサポートしたいと思いました」と林さんは話す。

薛さんも「被害者はすごく孤独です。友人に相談しても、学内で被害が広まってしまう2次加害の危険もあります。そうした被害者の人たちを守り、支援できるネットワークをつくっていきたいと思っています」と語る。

現在、「V.W.」には、創設メンバー以外のメンバーが入り、具体的な被害の相談は7件、寄せられている。中には、今現在も被害に遭っている人もおり、2件の被害については対応中という。

大学側にも働きかけて、性暴力やハラスメントのない安全な環境づくりを目指していく。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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