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武器をサンマに持ちかえた『ザ・ファブル』駅広告、「銃なら審査で弾かれていた」講談社宣伝部に聞く「広告規制」の現在
大阪市に展開したファブルのサンマ広告(提供:ぴろっこ@pirokko1さん)

武器をサンマに持ちかえた『ザ・ファブル』駅広告、「銃なら審査で弾かれていた」講談社宣伝部に聞く「広告規制」の現在

「週刊ヤングマガジン」(講談社)で連載中の漫画『ザ・ファブル』(作・南勝久さん)が11月7日から大阪市中心部の交通・街頭広告をジャックしたところ、ツイッターでバズっている。

交通広告は、鉄道各社が一定の基準を設けて、審査をおこなっているが、今回の広告では「殺し屋」たちによる銃を突きつけるシーンなどを採用しながらも、登場人物たちに魚のサンマを持たせる離れ業をやってのけ、交通広告の「広告規制」を乗り越えた。

SNSには、広告に記載されたメッセージ「※広告規制によりサンマを持たされています」の文字が躍った。

ここ数年の交通広告をめぐる「規制」について、今回の企画を手がけた講談社宣伝部の担当者に話を聞いた。

●「※広告規制によりサンマを持たされています」…巧みな合成技術がウケた

『ザ・ファブル』は、凄腕の殺し屋である主人公「ファブル」が、一般社会で「佐藤アキラ」として溶け込む際のおかしさと、他の殺し屋たちとの壮絶な戦いが描かれている。

岡田准一さん主演で実写映画化もされており、銃を使ったアクションシーンは外すことのできない重要な要素だ。

だが、駅など交通広告の表現には一定のルールが設けられているといい、今回のファブルの広告では、佐藤らが銃のかわりにサンマを手に持った姿で登場し、「※広告規制によりサンマを持たされています。」とのメッセージも添えられた。

JR大阪駅や大阪メトロ御堂筋線なんば駅、道頓堀といった繁華街を「ジャック」したことで、待ちゆく人がコンプライアンスを逆手にとったような広告を撮影し、ツイッターに投稿するなど、抜群の効果を生み出したとみられる。

ヤングマガジン編集部は、武器の代わりにサンマを持たせた理由として、「元々はバナナなど複数案あったのですが、作品との親和性と季節感からサンマを選びました」とコメント。

また、SNSの反響に「編集部も作者の南さんも『これは面白い』と思っていたので楽しんでいただけて良かったです。この広告をきっかけに、『ザ・ファブル』に興味を持っていただければ幸いです」とした。

●「見る人の感じ方」が審査で問題視されるようになってきた

公共性の高い駅や電車における広告は、誰もが目にするという性質上、審査において一定の基準を満たさない場合は掲示できないという。

銃などの「武器」のかわりにサンマを持たせたことも、そうした「広告規制」の壁を超える手段と言えよう。

交通広告の「広告規制」について、弁護士ドットコムニュースは、今回の企画を手がけた同社宣伝部担当者に取材した。

駅通路の広告(講談社提供) 駅通路の広告(講談社提供)

「昔から、刃物や銃などの武器(凶器)、薬物、タバコ、過度な飲酒をすすめるといったものはダメでした」と担当者は話す。

広告に関する鉄道会社のガイドラインの内容まではわからないが、審査の厳しさは各社に濃淡があるそうだ。

かねてから武器を扱う表現には厳しい中で、「サンマではなくて銃のままだったら絶対にできない広告だったと思います。目出し帽でもダメな場合がありますから」(担当者)

ここ3〜4年前からは、武器や薬物など、現実の社会で違法とされるものだけでなく、「人を不安・不快にさせるようなものはダメ」といった抽象的な理由のために、審査ではじかれるケースが出てきたのだという。

「交通広告の『広告規制』は、ここ3〜4年で鉄道各社が厳しくなってきているように感じます。広告を出す側は、媒体(鉄道会社)からダメと言われれば、応じなければいけません。企画が通るかどうかは、審査に出してみるまでわかりません」

審査が厳しくなる背景は、電車内で起きたテロ事件などを受けてのものだけでなく、見た人からのクレームやネット炎上があるのではないか——。厳しい「広告規制」に苦慮する広告主の心中を、広告業界関係者が推察する。

「広告の苦情・クレームが主に向かう先は、広告を出した側(この場合は講談社)ではなく、掲載を許可した鉄道会社です。広告を出す側にクレームがくれば、それに対して出版社側が意図を説明できますが、鉄道会社に迷惑をかけるとなれば、審査に対してなかなか強く意見することはできないでしょう。ネット炎上も実は数人で起こされるケースがあることもわかってきていますが、何度も炎上が繰り返されたらやはり問題とされて、広告掲載を中止せざるをえない場合もあります」

交通広告ではないが、同じヤングマガジンの作品では、『月曜日のたわわ』(作・比村奇石さん)の広告を紙面に掲載した日経新聞に対する批判が一部で起きたことも記憶に新しい。

●笑ってもらうことも広告の目標のひとつだった

講談社の宣伝部担当者は「人を不快にさせるという抽象的な理由でボツになると困ってしまうこともありますが、今回の企画は、単行本の発売にあわせたキャンペーンということだけでなく、多くの人に笑ってもらおうと思ってやったものです」として、今後も悩みながらも一定のルールのなかで創造性に富んだ試みを続ける考えだ。

大阪の広告ジャックは11月14日から第2弾が始まるという。次はどんな「離れ業」でファンを楽しませてくれるのだろうか。

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