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円谷幸吉さんの自死報道「自殺に追い込んだ」名指しされた元上司の遺族、名誉毀損で宝島社を提訴
原告の吉池義雄さん(右)と代理人の大森顕弁護士(9月14日、弁護士ドットコムニュース撮影)

円谷幸吉さんの自死報道「自殺に追い込んだ」名指しされた元上司の遺族、名誉毀損で宝島社を提訴

1964年東京五輪の男子マラソンで銅メダルを獲得した故・円谷幸吉さんを「自殺に追い込んだ人物」と雑誌で名指しされた元上司の遺族が9月14日、父親の名誉を傷つけられたなどとして、出版元の宝島社などに対し、1100万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求め、東京地裁に提訴した。

提訴したのは、元上司である故・吉池重朝さんの長男吉池義雄さん。重朝さんは円谷さんが在籍していた自衛隊体育学校で当時学校長を務めていた。

提訴後に開かれた会見で、義雄さんは「父が円谷さんを殺した張本人であると書かれたことに対し、やり場のない怒りと悲しみを覚えた」と話した上で、提訴は「父の名誉回復のため」であり、円谷さんの遺族に迷惑をかける意図はないことを強調した。

●裁判では「故人の名誉」も主張

訴状などによると、2020年1月発行の「別冊宝島Special 真相 戦後の昭和怪事件&スキャンダル」で、重朝さんの実名を挙げ、「円谷幸吉を自殺に追い込んだ人物」「(重朝さんは)鼻の下にアドルフ・ヒトラーのようなチョビ髭をたくわえており、学校では『独裁者』と呼ばれていた」などとする記事が掲載された。

円谷さんは1964年東京五輪で男子マラソンに出場し、陸上競技で唯一のメダル(銅メダル)を獲得するなど国民的英雄とうたわれたが、1968年に27歳の若さで自死した。

原告側は、円谷さんの自死の原因には諸説あり、唯一の原因といわれるような直接的な原因は特定されていないとしたうえで、重朝さんが円谷さんの自死を招いた張本人とするような記事を掲載することは、社会的評価を著しく低下させる名誉毀損だとしている。

毀損されたとする「名誉」について、原告側は、円谷さんを自死に追い込んだ人物の息子としての烙印を押された立場にある義雄さん固有の名誉のほか、故人である重朝さんの名誉も挙げている。

その根拠に、死者の名誉を毀損する者を処罰する刑法230条2項や故人の人格権が侵害された場合の救済措置を定める著作権法60条および116条があるとして、故人の名誉権もこれら規定の類推適用により、法律上保護される利益にあたると主張。重朝さんの名誉侵害による損害賠償請求権についても、著作権法116条1項の類推適用により、義雄さんが行使主体となるとする。

●「子や孫の代も、ずっと続くのかなと辛い気持ちになります」

原告代理人を務める大森顕弁護士は、民事訴訟で死者個人の名誉が保護されたケースについて「把握している限りではない」とする。

損害賠償等を請求する上で、故人の名誉も毀損されたと主張することについて、「亡くなられた方は権利主体でなくなることは当然わかっている」としたうえで、「一番名誉を回復してほしいと考えているであろう人物は吉池重朝さんだ」と話す。

「残念ながら、現時点での死者の名誉毀損に関して、(その救済が)十分でないのではないかと思うところであり、今回の訴訟を通じて新しい流れを獲得できればという思いもあり、ご遺族の権利として請求するだけでなく、重朝さんご自身の賠償請求権という形にしています」(大森弁護士)

同代理人の加地裕武弁護士は、『故人の名誉』を主張することが「法的に難しい部分があることは十分承知している」としたうえで、それでも主張することについては「亡くなられた方に対する誹謗中傷」が昨今大きな社会問題となっていることを指摘する。

「インターネット社会では、誹謗中傷が一つの形となって残り続けます。

(過去の事実として)歴史があるとして、その歴史が間違っていたり、その誤りによって遺族や亡くなられた本人が傷つくような事態があれば、当然何かしらの形で正していかなければならないということは間違いないと思います。

そういった観点から、遺族だけでなく、『故人の名誉』というものも考えなければいけない時期にきているのではないでしょうか」(加地弁護士)

「私自身、円谷さんが大好きで尊敬している」と話す義雄さんは、今回提起した理由に、「家族の存在」を挙げた。

「円谷さんが偉大だっただけに、五輪がなくならない限り、円谷さんの話は4年ごとに出てくるだろうというスポーツ評論家の記事を見たことがあります。

『吉池』を名乗る子や孫、そのあとの世代でも、(円谷さんを自死に追い込んだと言われることが)ずっと続くのかなと辛い気持ちになります」

義雄さんは、提訴の目的があくまで重朝さんの名誉回復であることを強調。円谷さんの死の真相を探ったり、円谷さんの遺族に迷惑をかける意図はないとし、今回の裁判をきっかけに、「円谷さんのご遺族にご負担が生じないよう配慮していただければ幸い」と話した。

●宝島社の見解

宝島社の広報担当は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「訴状が届いておらず今の段階でお答えできることはございません」と回答した。

(9月15日10時20分、宝島社の回答を追記しました)

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