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「そんな法律ないわ」弁護士をも悩ませた相談とは NHK長寿番組『生活笑百科』舞台裏
(背景:yu_photo / PIXTA)

「そんな法律ないわ」弁護士をも悩ませた相談とは NHK長寿番組『生活笑百科』舞台裏

1985年の第1回の放送から、昭和・平成・令和と3つの時代にわたり毎週土曜日のお昼に放送されてきたTV番組「バラエティー生活笑百科」(NHK)が、2022年4月9日で37年間の歴史に幕を閉じた。

法律問題を考える構成作家として約34年間にわたり同番組に関わってきた筆者が、どのようにして番組が作られていたのか、インターネットがなかった時代の苦労なども含め振り返る。(放送作家・ライター/湯川真理子)

●日常の他愛ないトラブルは弁護士をも悩ませる⁉

番組に関わってからしばらくの間は、番組担当のプロデューサーと法律の問題を考える私たち構成作家の2名という、全国ネットとは思えない少人数での会議が続いた。

後に担当ディレクターも加わることになるのだが、長い間、それこそ膝突き合わせて何度も何度も検討を繰り返すという会議だった。漫才になる前の設定(ストーリー)を組み立て、どのような解答に分かれるかを考えるのが、構成作家である筆者の主な仕事である。

ところが、最初の頃は、設定を組み立てたのはいいが、答えがどうなるのかが分からない。これにはかなり困った。解答によっては設定から見直さなければならない。解答者がどう答えるかも法律的な正解がわからないままでは、なかなか考えにくい。

たとえば、「倍にして返すから1万円貸してほしいと頼み込んで借りた場合、本当に倍返ししなければならないか」という設定は面白そうと考えてはみたが、解答がわからない。今ならインターネットでサクサク検索できるのだが。

「最初に倍返しと約束しているから、契約成立じゃないかなあ」 「倍返しはなんぼなんでも利息が高すぎるから、法律的にはおかしいんじゃない」 「でも倍返して言われへんかったら貸さへんかったはずだし」

その後、弁護士に問い合わせると「倍の利息なんかで返さんでええやろ」と即答。しばらくして、私たちはプロデューサーに「月に一度でいいので、弁護士の先生に会議に出席してもらいたい」と頼み込んだ。その願いがかない、月に一度は交替で会議に参加してもらえることになった。

おかげで、「結婚式のドレスを貸りようと試着しにきた友人が、『このドレスはサイズ的に着られないと思う』とドレスの持ち主に伝えるも、『大丈夫、着られるから』と持ち主に勧められたため、頑張ってドレスを着ようとしたら、ドレスが破れてしまった」という設定を考えた際、次のようなやりとりがその場でできた。

筆 者「修理するのはどっちの責任ですか?」 弁護士「知らんがな。友達同士で話し合ったらええ」 筆 者「先生、法律的にはどうなりますか?」 弁護士「そんな法律ないわ」

月に一度、弁護士に会議に出てもらうシステムは、番組終了まで継続された。37年の間、レギュラーとして7名の弁護士に番組に関わってもらった。弁護士と直接顔を合わせて検討することで悩ましかった「解答はどうなるんやろ」という疑問が解消し、設定も少し考えやすくなった。

どんなトラブルでも法律で考えれば、どうなるのかを真剣に考えてもらった。ただ、このとき、弁護士によって見解が異なることを初めて知って驚いたりもした。

●発想の種は日常の出来事と妄想から

問題作りは、ふとした日常の会話から生まれることが多い。実際の経験からも問題が生まれた。

友人と道を歩いていた時、「あっ、電信柱のとこ見て。1万円札や!」と筆者が声を出すと、「ほんまや」と友人が駆け寄って1万円札を拾い、「警察に届けるわ」とその1万円札を友人の鞄にしまわれてしまった。

筆者は内心、「えっ、見つけたのは私やのに」ともやもや。「もし、落とし主が現れへんかったら、半分は私がもらえるんちゃうの」と思ったが、口には出さずに黙っていた。後日、番組担当の弁護士に聞いてみた。

「落とし物って、見つけた人と届けた人がいたら…」 「落ちていたのが、1万円札じゃなくて宝くじだったら。それが一億円の当たりくじだったら…」

のちに「生活笑百科の担当を離れてから太ったわ」と話していたその弁護士は、笑いながらそう教えてくれた。「弁護士の先生はどのようなお考えですか?」の問いかけに「わからん」と答えて爆笑をとった弁護士だ。もちろん、そのあとには、ちゃんと法的にはこうなると、きちんと答えてはくれたのだが。

「『電車に乗る前に、駅の売店で、ジュースを買って1万円札を置いたとき、特急が通過して、はるか線路の向こうに飛んでった』いうのがあったやろ。あれは困ったけど、おもしろかった」と同弁護士。

なくした1万円札の責任は、客にあるのか、売店の人にあるのか、はたまた風圧で飛ばした電車か…。さあ、どこにあるのか。「わからん」と答えたくもなるはずだ。

●数少ない決めごと「本当に悪意のある人物は番組に登場させない」

「法律番組はかくあるべき」というものはない。そもそも、テレビ番組にこうあるべきという正解はない。

やってはいけないことは多々あるが、「こうやりなさい」という決めごとが本来ないのがテレビ番組だ。まして法律とお笑いがタッグを組むという新鮮さは、未開拓な分野であったため、やりがいもあった。

なんとなく決めごとにしていたのは、漫才では「遺留分」や「法定利率」などという法律用語を使うのは不自然なので、これらの用語を使用しないこと。そして、本当に悪意のある人物を番組に登場させないことだ。これは放送初期の頃からずっと一貫していた。

相談には、自転車が盗まれて困っている人物は登場しても、「しめしめ、自転車にカギがかかっていないから盗んだろ」という人物は登場しなかった。

2000年頃までは、テレビは今ほどあれもこれもダメということが少なかったように思う。インターネットも普及していなかったので、もっと自由だった。

我ながらよく、30年以上も考え続けられたと思うが、法律がさほど変わらなくともバブル、リーマンショック、コロナ禍、と世の中の流れが変わっていく中で、日常のトラブルも変化をし続けた。

(この連載は不定期更新です。続きは後日掲載します)

【筆者プロフィール】湯川 真理子(ゆかわ まりこ):和歌山県田辺市出身。大阪府在住。放送作家・ライター。バラエティー、情報番組、音楽番組、ドキュメンタリー等、幅広いジャンルのテレビ番組に関わる。著書『宝は農村にあり 農業を繋ぐ人たち』(西日本出版社)。

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