「首都圏ほぼ満杯」 児童養護施設「18歳の壁」撤廃も…若者支援の実効性に課題
中村さん(提供画像をもとに編集部で作成)

「首都圏ほぼ満杯」 児童養護施設「18歳の壁」撤廃も…若者支援の実効性に課題

家族からの虐待や死別で、児童福祉施設などで暮らす子どもたち。現行法では支援の期間は「原則18歳、最長でも22歳まで」となっているが、近く年齢制限がなくなる見通しだ。

厚労省の検討会が今年1月に決めたもので、「都道府県等が必要と判断するまで」支援を受けられるようにする。今国会で改正児童福祉法として提出するという。

現場では長らく「18歳の壁」の問題が指摘されており、歓迎の声があがっている。ただし、施設も無限に子どもを受け入れられるわけではなく、実効性をどこまで確保できるかがポイントになる。

●多くは高卒で就職する現実

現行の児童福祉法では、支援を受けられるのは原則、満18歳まで(同4条)。ただし、満20歳まで「措置延長」できる(31条2項)。さらに2017年度から、大学等に在学中であれば、満22歳の年度末まで支援が受けられる運用になった。

ただし、進学する子どもは少ない。児童養護施設を例にとると、2019年度末に高校を卒業したのは1752人。うち専門学校なども含め、進学したのは約3割。同世代全体の7〜8割と比較すると少なさがわかる。

厚労省の資料「社会的養育の推進に向けて」(2022年1月)のp129より。赤枠は編集部(https://www.mhlw.go.jp/content/000833294.pdf)

進学しようにも金銭的な負担が重い。奨学金などはあるものの、十分とは言い難く、家族を頼れる子どもに比べると、選択肢は狭くならざるを得ない。

結局、半数以上が就職するうえ、地方には国公立大学以外の選択肢が少なく、他県に進学するケースも多いため、高卒後に措置延長される子どもは2割程度だ。

●施設を離れてトラブルに巻き込まれるケースも

だが、施設を離れた「ケアリーバー」の生活は困難で、行き詰ってしまうケースが少なくない。

東京都が過去10年間に児童養護施設などを退所した人を対象に調査した結果によると、退所してはじめて就いた仕事を 「すでに辞めている」人が 55.3%。そのうち、約4割は就職から1年未満で辞めているという。

東京都「児童養護施設等退所者の実態調査結果」(2022年1月)のp35より(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/katei/taishosha-chosa.files/r4-2-1.pdf)

一度施設を離れた子どもたちの中には、家族がいても帰る家がない子が少なくない。寮や借上げ住宅のある就職先を選ぶことが多く、仕事を失うことは住まいを失うことでもある。

また、現在通院中が17.0%おり、そのうち約4割が「心療内科」、「精神神経科」だった。

このほか、厚労省が2021年に公表した実態調査でも、施設を出たあと、赤字生活になっていた人が22.9%もいた。

施設にいる間は光熱費や食費などを自分で払うことがなく、一方自立のためとバイト代や小遣いの使途を厳しく管理されるため、施設を出たとたんに高額な買い物や契約で破産してしまうケースもあるという。

厚労省「児童養護施設等への入所措置や里親委託等が 解除された者の実態把握に関する全国調査【報告書】」(2021年3月)より(https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2021/04/koukai_210430_1.pdf)

こうした諸問題から、満18歳以降の支援の必要性が指摘されていた。

●「育て直し」には時間がかかる

児童養護施設で育つ子どもの支援をおこなう「タイガーマスク基金」の理事で、児童養護施設の施設長だった中村久美さん(現・さくらの森学園施設長)によると、施設にたどり着くまで人に助けてもらった経験のない子は人に頼ることが苦手だという。

「人に頼ってうまくいった経験を積ませたいのですが、『育て直し』には入所時の年齢の倍の期間がかかると言われています。高齢児と呼ばれる中学生以上の子どもを支援するのに原則18歳まででは時間が足りません」

ただでさえ経験に乏しい若者が、人の助けなしでいきなり外の世界で生きていくのは難しい。

中村さんは、「本当にどうしようもなくなって、初めて施設に連絡をくれることが多い」と話す。

「本来差別などはあってはいけないが、施設を出た子たちは、進学、就職、結婚等、自分の生い立ちと向き合わなければならないときがあります。そんな時に施設は子どもたちを見守るだけでなく支えていく必要がある」

相談しやすいようにと、中村さんは施設を卒業した子どもたちにLINEの連絡先を伝えている。恋愛相談から、再就職の支援、ときには金銭トラブルの解決を手伝うこともある。子どもたちにとって、「実家のような場所でありたい」という。

このような施設を出たあとのサポートは、多くの児童養護施設でおこなわれているという。

ただ、先の厚労省の実態調査によると、施設との連絡が1年間に1回もないという人も14.2%いる。しかも、この調査、施設や里親から調査票 が案内されたのは全体の3分の1ほどで、そもそも連絡がつかなくなっている人が圧倒的に多いことを念頭に入れる必要がある。

厚労省「児童養護施設等への入所措置や里親委託等が 解除された者の実態把握に関する全国調査【報告書】」(2021年3月)より(https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2021/04/koukai_210430_1.pdf)

法律が改正されれば、子どもたちのケアにより注力でき、支援体制の構築にも時間をかけることができる。また、これまで「手弁当」だった退所後の部分についても法的に認められやすくなることが期待される。

●地方には余裕があるが…逼迫する都会の定員枠

ただ、課題もある。支援の受け皿が足りるのかという問題だ。

厚労省によると、児童養護施設の定員は3万782人、現員は2万3631人だから入所率は80%弱だ。一見すると余裕があるように見える。

厚労省の資料「社会的養育の推進に向けて」(2022年1月)のp2より。赤枠は編集部(https://www.mhlw.go.jp/content/000833294.pdf)

しかし、東京都に限定すると入所率は95%ほど。一時保護委託を受けている施設では、実際の入所率はさらに高く、定員いっぱいの施設もあるそうだ。

東京都「東京都の児童養護施設の状況」より(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/katei/jifukushin/jidou_31st/senmon_31nd/dai4kai.files/dai4kai-senmon-siryou3-3.pdf)

「地方は定員が空いていますが、都市部は一時保護所と児童養護施設がほぼ満杯。仮に枠があっても、女子寮の中に男子は入れないように、数字だけでは見られない部分もあります。年齢上限が撤廃されても、うまく機能するかという問題はあります」

たとえば、「一時保護所があふれているのに、そんな理由で措置延長してもらっては困る」などと、支援が打ち切りになってしまわないか懸念しているという。

そのためにも定員や予算、人員の確保が必要だと指摘している。

●奨学金や支援金の充実も

世間的には高卒後、何らかの教育機関に進学することが一般的になりつつある。自立支援という点では、希望する子どもたちが進学できることが望ましい。

中村さんがいるタイガーマスク基金では、働きながら大学に通う児童養護施設出身者に返済不要の奨学金(4年間で30万円)を用意している。また、昨年は、コロナ対策として3万円の追加支援金も特別に給付した。

この2月からは、今春に大学を卒業する奨学生を対象に、1人あたり3万円の「臨時給付金」を支給するためのクラウドファンディング(https://camp-fire.jp/projects/view/557378)もはじめた。

奨学生の中には、コロナ禍でアルバイトが減り、就職などに際し、引越し代など、まとまったお金を工面するのに苦労する学生もいるという理由だ。

各種の支援が増え、昔に比べると、児童養護施設の子どもたちも進学しやすくなっているという。官民あげて、支援をより充実させることも求められている。

【修正:2022年3月7日】 タイガーマスク基金の給付金について修正しました。

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