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ツール・ド・フランス大転倒事故、女性観客が逮捕…日本で起きたら法的責任は?
プラカードを掲げる観客の女性(「Tour de France」公式YouTubeチャンネルより、https://www.youtube.com/watch?v=U9ReU6HoufA)

ツール・ド・フランス大転倒事故、女性観客が逮捕…日本で起きたら法的責任は?

6月26日に開幕した世界最高峰の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」。その初日におこなわれた第1ステージで、沿道から道路に乗り出していた観客のプラカードに選手が衝突する事故があった。

ツール・ド・フランス公式のYouTubeチャンネルの動画には、道路に乗りだしていた観客の女性が、近づいてくる選手の集団に対して背を向けて、ドイツ語で「おじいちゃん おばあちゃん」と書かれたプラカードを掲げる様子が映っていた。集団の先を行くテレビカメラの方にプラカードを向けていたものとみられる。

その直後、集団の先頭で沿道近くを走っていた選手がプラカードに衝突し転倒。さらに後続の選手数十人が次々に巻き込まれて転倒し、大クラッシュとなってしまった。

報道によると、レースは数分間中断され、クラッシュの影響でリタイアする選手がいたほか、観客にも負傷者が出た。地元の捜査当局も捜査に乗り出し、問題の女性は現場から逃走したものの、6月30日に逮捕されたと報じられた。

高速度で走っているロードバイクの転倒は、命にかかわる大事故につながりかねない非常に危険なものだ。沿道の観客が事故原因となっては、単なるマナー違反では到底済まされない。もし日本で同じような事故が発生した場合、どのような責任を問われるだろうか。清水俊弁護士に聞いた。

●状況次第では莫大な賠償額になり得る

——観客が日本国内で今回のような事故を起こした場合、責任はどうなるでしょうか。

まず、転倒した選手らに対して民事上の損害賠償責任が発生します。

損害の内容が問題となりますが、治療費や自転車の修理費、怪我に対する慰謝料はもちろん対象となります。加えて、クラッシュやリタイア、怪我をしたことで得られなくなってしまった利益や収入の有無・内容によっては莫大な賠償額になり得ます。

主催者に対しても、事故対応に伴う諸経費のほか、やはり得られるはずの利益や収入がクラッシュ事故で失われたのであれば賠償対象になり得ます。

もちろん、選手や主催者は保険に加入しているとは思いますが、保険で賄えないものについては、事故原因となった観客に請求することになります。

なお、保険で対象となったものについては、保険会社が原因となった観客に対して賠償請求(求償)することになりますので、保険対象分についても免れることができるというわけではありません。

——現地では捜査もおこなわれているようですが、刑事責任についてはどうでしょうか。

怪我をした選手との関係では、「傷害罪」が成立し得ます。

原因となった観客には怪我をさせるつもりはなかったとは思いますが、プラカードを路上に張り出す形で掲げること自体は「暴行」といえますし、暴行から傷害の結果が発生すれば、原則としてその責任を負うことになります。

——過失犯ではなく故意犯が成立するのでしょうか。

今回のケースで、観客はテレビカメラにプラカードを向けていたなどと報じられていますが、そのカメラのすぐ後ろに高速度で走っている選手の集団がいることはわかっていたはずです。

そんな状況でプラカードを路上に張り出す形で掲げれば、選手らとぶつかる可能性があることは十分認識できたでしょうし、それにもかかわらず掲げていたのだとすれば、客観的には「ぶつかってもかまわない」と考えていた、すなわち少なくとも「暴行」については故意があったと捉えられる可能性は十分あると思います。

●主催者側の責任が問われる可能性もゼロではない

——選手の安全確保に対する主催者側の責任はどうでしょうか。

主催者側の責任も発生する可能性があります。

被害者側からすれば、原因となった観客個人では賠償能力が乏しいと思われるため、主催者側(保険会社を含みます)も巻き込んだ賠償の議論にしたいところではないでしょうか。

この点、ルール違反の観客の悪意ある行為は防ぎようがないという意見もあり得ますが、こうした事故が予見可能にもかかわらず、事故防止のために観客とコースとの間に十分な距離を保つなど必要な措置を講じていなかったとすれば、主催者側にも過失責任が生じる余地はあります。

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この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

清水 俊
清水 俊(しみず しゅん)弁護士 横浜合同法律事務所
2010年12月に弁護士登録、以来、民事・家事・刑事・行政など幅広い分野で多くの事件を扱ってきました。「衣食住その基盤の労働を守る弁護士」を目指し、市民にとって身近な法曹であることを心がけています。個人の刑事専門ウェブサイトでも活動しています(https://www.shimizulaw-keijibengo.com/)。

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