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「GIGAZINE倉庫破壊事件」で編集長が敗訴した理由 バトルは控訴審へ
裁判で争われている土地と建物(2009年末時点、グーグルストリートビューから、https://www.google.com/maps/@34.7081027,135.4450122,3a,20.8y,76.63h,89.37t/data=!3m6!1e1!3m4!1sA-1aAI76KX8aTHi67G7K_w!2e0!7i13312!8i6656)

「GIGAZINE倉庫破壊事件」で編集長が敗訴した理由 バトルは控訴審へ

2019年、大阪市西淀川区にある土地と、その上にたつ建物をめぐって、インターネット界隈で大きな注目を集める「紛争」が勃発した。建物の所有者であるネットサイト「GIGAZINE(ギガジン)」の編集長が、地権者による建物取り壊しの様子を記事にまとめて報じたからだ。

時をへて、地権者と建物所有者のバトルは、地権者を原告とする裁判に移っていた。

2021年3月11日、大阪地裁(佐藤志保裁判官)は、編集長の主張をしりぞけ、建物の収去 (解体および撤去して更地にすること)・退去を命じる判決を下した。さらに、賃料相当の損害金を原告に対して支払うよう命じた。

傍聴人がその概要をネット掲示板に書き込んだことから、2年ぶりに話題が持ち上がっている。

弁護士ドットコムニュースは判決文を入手。裁判所の判断を報じる。また、編集長側は判決を不服として控訴した。(ニュース編集部・塚田賢慎)

●裁判でわかったこと(要約)

・建物は地権者とは別の人物によって1953年に建てられ、編集長の祖父が1981年に購入した

・2005年に祖父が亡くなると、建物の所有権は編集長(孫)にうつった。

・「祖父の死とともに、建物のある土地まで編集長のものになる」という契約が存在したと編集長は主張した。地裁は認めず、編集長に土地の所有権はないとした。

・「長年、土地代を請求してこない地主は、無償の土地使用を黙認していた。我々は会社の倉庫として使用してきた」などと編集長は主張した。地裁は、地主が黙認していたと言えず、土地の使用貸借権も成立しないとした。

・編集長は建物の固定資産税や火災保険は支払っていたが、地主に対して、2006年から土地代を全く支払ってこなかった。その金額は約355万円になる。

・今回起こされた訴訟や、地主が「土地の賃貸借契約を解除する」と表明したことを、編集長は「権利の濫用」と主張した。しかし、地代の滞納は多額で、地主との信頼関係は「著しく破壊」していることから、地裁は「権利の濫用ではない」とした。

・地主は取壊工事の前に、権利関係を十分に確認していなかったが、取壊工事には、編集長らを脅かす意図はなかった。

・結局のところ、建物の取壊は認められる。

黄線は不動産会社が購入した土地。赤線は建物がたつ土地(裁判資料から、マークは編集部) 黄線は不動産会社が購入した土地。赤線は建物がたつ土地(裁判資料から、マークは編集部)

●GIGAZINE記事では「地上げ行為」と紹介されていたが…

この事案に関するGIGAZINEの記事は、2019年に計3本配信されている。

2019年3月29日(ある日突然自分の建物を他人がショベルカーで破壊しても「建造物損壊」にはならないのか?)

3月31日(続・ある日突然自分の建物を他人がショベルカーで破壊しても「建造物損壊」にはならないのか?)

4月9日(ある日突然無断で他人の建物をショベルカーで破壊する企業は「反社会的勢力」ではないのか?)

記事では、本件裁判で争われている建物を「GIGAZINE第一倉庫」と呼び、倉庫がショベルカーで破壊されているのを発見した編集長は、「ここはうちの名義になっているし、登記して権利を所有している。火災保険もかけているし、税金も払っている。何かの間違いではないか」(引用)と解体業者に訴えていた。

裁判では、この主張は事実であると認められた。

記事では、解体現場に現れた女性地主が周囲に発した言葉として、≪「もともとはおじいさん(=編集長の祖父)に貸したのであって、この人(=編集長)のことは一切知らない」と虚偽の主張をし始めました。≫(引用)としている。

「虚偽」と指摘されているが、裁判では、この女性地主の主張を認めている。

記事では、編集長が法務局から得た情報をもとに、「地上げ行為」の手順として、 ・「勝手に家屋をショベルカーなどで破壊して解体して更地にする」 ・「滅失登記の申出」を行う などを紹介していた。

たしかに、2018年11月22日、女性地主は不動産会社に、土地を約6500万円で売却する契約を結んでいたことが判決からわかった。この契約では、女性地主が建物を解体し、土地を更地にしたうえ、建物滅失登記を完了させ、2019年3月29日までに、原告の不動産会社「N」に引き渡すことが条件となっていた。

また、記事では、解体について、「建造物損壊罪」など不当な行為に該当しないか検討していた。ただ、不動産会社と女性地主には、取壊工事で編集長を脅かす不当な意図がなかったことが認められている。

最終的に、地裁は、編集長が土地の地代を13年分(355万円)滞納していたことから、女性地主との間で信頼関係が破壊されていると認定。さらに、編集長は、不動産会社が起こした裁判を「権利の濫用」と主張していたが、それも退けられた。

●当事者のコメント

判決を受けて、不動産会社「N」の代理人弁護士は3月31日、編集部に「事実関係を詳細に検討した上での判決であり、結論に異論はない。また、建物収去等についても仮執行宣言を付されている点で、当方の請求及び主張内容を重く受け止めて頂いたと考えている」とコメントした。

※編集部はGIGAZINE側にもコメントを求めている。返答があれば、追記する。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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