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加藤浩次さん「粛清」報道の裏側にある「吉本」の大企業、官僚化 専門家が指摘
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加藤浩次さん「粛清」報道の裏側にある「吉本」の大企業、官僚化 専門家が指摘

お笑いタレント加藤浩次さんと吉本興業とのエージェント契約が3月いっぱいで終了することが3月9日に発表されました。

加藤さんは2019年の闇営業問題で吉本側を批判、従来のマネジメント契約ではなく、専属エージェント契約にいたったという経緯があります。

契約終了をめぐっては、吉本による「粛清」ではないのかという報道も出ています。関係者や専門家の意見を取材しました。(ライター・谷トモヒコ)

●加藤さんにも驚きだった?

「私が話を聞いたときには加藤は『俺はエージェント契約は続ける気だけどね~』と言っていました。思えばその時点で契約終了を告げられていたのかも知れません。

しかし、裏番組のMCに麒麟の川島が起用された件が『加藤つぶし』ではないかと尋ねると『えっ、そんなことまでする?』とかなり驚いた様子で、何やらぶつぶつ言いながら考え込んでしまいました。

話していて、素直なリアクションをする人だなと感じたので、そのままの反応だと思います」

吉本興業がタレント・加藤浩次さんにエージェント契約終了を突き付けた件。2月に加藤さんを取材した雑誌記者は上記のように証言しています。

エージェント契約を更新してもらえなかった件以外でも何らかの圧力について加藤さん自身思い当たるふしがあったのかも知れません。

3月9日、吉本興業は加藤さんとの契約終了を公式サイトで発表しました。

「タレント加藤浩次は当社とエージェント契約を締結したうえで芸能活動を行っておりましたが、双方の協議の結果、同契約の期間満了により2021年3月31日(水)をもってエージェント契約を終了することになりましたのでご報告します。」(公式サイトより)

実際に話し合いの場で加藤さんが契約終了を告げられたのは2月のことだと言われています。

3月10日、この発表を受けて加藤さんはMCをつとめる『スッキリ』(日本テレビ系)で、「僕もびっくりしているというか『そうなったか』みたいなところがある」とコメントしました。

これは、どちらかが契約を延長しないことを告げれば契約は終了というルールを決めたのは自分自身だったことに対しての彼の素直な感想なのでしょう。

●「闇営業」問題の禍根という声も

しかし、正直なところ「やっぱり」というのが多くの人の感想なのではないでしょうか。なぜなら、2月には加藤さんがMCをつとめている2番組の終了が発表されています。

さらに4月から『スッキリ』の裏番組としてスタートするTBSの『ラヴィット』のMCとして麒麟の川島明さんが起用されたことなどが吉本による「加藤つぶし」ではないかと一部で報じられたからです。

加藤さんは2年前の吉本興業の闇営業問題の際に、大崎会長との面談を要求して実現させるなど、いわゆる「加藤の乱」で幹部批判の急先鋒として活躍しました。

その結果、エージェント制ができたわけですが、その当時のことをずっと根にもっている人間が上層部におり、粛清を始めたというのです。

なんばグランド花月(mikisaki / PIXTA)

●契約の内容が問題になったという声も

吉本が契約終了の判断をした理由としてはギャラの配分から生じた他の芸人との不公平感ゆえだという関係者もいます。

「加藤と吉本興業のギャラの配分は8対2という取り決めだったと言われています。これは吉本内部でもかなり破格の待遇です。

それなのに仕事の窓口が吉本になるのはともかく、実際のマネジメント業務も大半は吉本がやっていた。他の芸人からみれば不公平で、それを是正するために契約を切ったというのです」(芸能レポーター)

●元SMAPで問題になった芸能界の「干す」慣習

19年7月、元SMAP3人のテレビ出演に圧力を加えたとして、ジャニーズ事務所が公正取引委員会から注意を受ける、という出来事がありました。

これをきっかけに芸能事務所がかつて所属したタレントを「干す」ことがやりにくくなったと言われ、昨今事務所から独立するタレントが増えた背景になっているとも言われます。

もしも、今回の契約終了が吉本興業の加藤さんに対する「粛清」だとすれば、時代に逆行していると言わざるをえません。

●放送の専門家「粛清かどうかは今後の対応次第」

元毎日放送プロデューサーで同志社女子大学メディア創造学科の影山貴彦教授に話を聞きました。

「今回の件はたしかに契約違反ではないのかも知れません。しかし、芸能界は人間が商品ですから、ちょっと扱いが荒いなあというのが正直なところですよね。

岡本社長の言葉を借りて〝吉本興業はファミリー〟だというのなら、時には息子がお父ちゃんに歯向かったりすることもあるわけです。

それで見捨てずに、まあまあとなだめるのが家族なんじゃないの、と思うんです。吉本さんきつすぎやしませんか? という気はします」

吉本興業の岡本昭彦社長(2019年7月22日、弁護士ドットコム撮影、東京・新宿)

今回の契約終了は「雑な扱い」だとは指摘するが、「粛清」というニュアンスとは少し違うと影山氏は言います。

吉本は振り上げた拳をおろしてしまったのかもしれないが、徹底的に潰そうという意図はそこにはないはずだと言うのです。

「粛清という言葉だけが独り歩きしましたが、吉本興業を父親とするなら、お父ちゃんが息子に対してめっちゃ怒った。ここまでが現在の話。

しかし、今後、加藤さんに局側がオファーを出して仕事が続いていくのであれば、吉本はそれを潰してやろうということはしないと僕は信じたいですね。

このまま潰れてしまえば、吉本の上層部の一部はざまあ見ろと思うかも知れない。でも、加藤さんがしっかりとやっていれば外の人間として素直に拍手を送るのではないでしょうか」

●吉本から「遊び」がなくなった?

だが、その一方で時代とともに吉本の体質も変わりつつあると影山氏は指摘します。影山氏が現役のプロデューサーやディレクターだったころには今回のような仕打ちはなかったというのです。

「横山やすしがクビになったときも、何度か猶予はありました。何度も裏切られて世間も『そりゃあ吉本さんしゃあないわ』という段階になって、ようやくクビになった。今回はそういったハンドルの遊びのような部分がありませんでした。

昔の吉本は商店街の気のいいおっちゃんみたいな存在でした。自分の担当の仕事でなくても、こちらがやってほしいことには何でも応えてくれるような仕事をする人が多くいました。

しかし、そんな人たちも最近では偉くなって官僚みたいになってしまった、なんて愚痴をかつての同僚から聞いたりもします。大企業になり国の仕事をするようになって変わっていった部分はあります。そしてその過程でかつての吉本らしさが薄らいでいったと思います。

昔のやり方では生き残っていけない部分も確かにあります。その点ではある種達者な企業なんです。そういう事情もわかるだけに一刀両断にはできませんけど、あんたら原点を忘れたらあかん部分はあるで、とは言いたくなります」

昔、関西で育った子供は「あんた、悪いことしとったら吉本に入れるで」と親から脅かされたといいます。

しかし現在では所属タレント6000名を数え、一流大学を出ていても社員になるのは難しいといわれる大企業になりました。それと引き換えに変わっていかざるをえなかったもの、失った部分も多いのかも知れません。

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