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なぜワイドショーは“偏る”のか? コロナ報道で批判も 制作めぐる3つの構造問題
画像はイメージです(lindrik / PIXTA)

なぜワイドショーは“偏る”のか? コロナ報道で批判も 制作めぐる3つの構造問題

連日、新型コロナウイルスの話題でにぎわうワイドショー。ネットでは「不安をあおりすぎ」という批判もよく見られました。

なぜ、ワイドショーは「偏って」しまうのか。そこには制作をめぐる、構造的な問題が絡んでいます。

情報に踊らされないよう、ワイドショーをクリティカル(批判的)に見るうえで、押えておきたい3つの特性・裏側を紹介します。(テレビプロデューサー・鎮目博道)

●1:ニュース番組よりも速報性に弱いことを念頭に置いておく

まず、押さえておきたい基本的な特徴として、「ワイドショーはニュース番組よりも速報性に弱い」ということがあります。

一見するとニュース番組とワイドショーは、内容的にはほぼ同じように見えますが、実はそこには歴然とした違いがあるのです。その違いを知るには、実は「テレビ局内でも制作している部署が違う」ということを理解していただくといいかもしれません。

現在では民放各局とも、ワイドショーは「報道局」と呼ばれる、記者がいてニュースの制作を担当する部署が制作している場合が多いのですが、かつては報道ではなく「制作局」というバラエティやドラマを作っている部署や、「社会情報局」などと呼ばれる生活情報番組の制作を担当する部署が制作を担当しているのが一般的でした。

しかし、オウム真理教が坂本堤弁護士一家を殺害した「坂本弁護士一家殺害事件」でTBSのワイドショーが問題を起こし、社会情報局を廃止したあたりの時期から各局ともワイドショーの制作部署を報道局に「統合」するようになりました。

統合されたとはいえ現在でも、ワイドショー制作部署はだいたい「ニュースとは違う」という扱いを受けています

例えば、全国ネットのニュース番組は「ニュースネットワーク協定」(NNN、JNN、ANN、FNN、TXNというのがそれです)というものに基づいて、系列各局の共同制作で作られていて、全国の報道記者が取材した情報や、ニュースカメラマンが撮影した映像を当然使用していいことになっています。

しかしワイドショー番組は、原則的には東京のキー局や、大阪・名古屋などの局が単独で制作しています。地方局の素材は購入して使用しないと使えませんし、自局のニュースの原稿を使用する場合でも「出稿部」(社会部・政治部・経済部・外信部などです)などの担当部署の許可をもらわなければ使えません

また、ニュース映像については「こんな映像をこういうふうに使います」という内容が書かれた使用許可願いのような文書を作成し、ADさんがその文書を持って出稿部のデスクなどにハンコを押してもらい(「スタンプラリー」などと影で呼ばれたりします)、映像素材をコピーするなどして借りてこないと使えないのが原則です。

画像タイトル hanack / PIXTA

こうした作業を経てニュース原稿や映像を「借りてきて」制作しているので、ワイドショーは構造的に「ニュースに比べて使われている情報や映像は若干古い」のです。場合によっては前日のニュース番組が編集したVTRをそのまま再利用している場合などもあります。

ですから、こうした「速報性の弱さ」を補完するために、各ワイドショー番組では「報道フロアーから最新ニュースを伝える」コーナーを設けている場合が多いです。このコーナーだけはワイドショーの中にあってもニュース番組と同等の扱いを受けている場合が多いので、情報も映像も最新です。

最新のニュースは、ニュース番組やニュースコーナーで確認した方がいい」ということを念頭においてワイドショーを見るのがまず私のオススメです。

●2:事実を重視しているかを知るには「独自取材の多さ」と「コメンテーターの人選」

こうした「ニュース原稿や映像を使いづらい」ことや、ニュース番組に比べて予算が少ないことなどもあって、ワイドショーはスタジオにゲストを呼んで、トークすることで放送時間を埋める傾向がどうしても強くなります

ですので番組の内容が「事実よりも意見が多くなってしまう」傾向が本質的にあるということができます。そんな中でも頑張って「多くの事実を伝えよう」としているワイドショーを選んで見るのがいいと私は思います。

そうした番組を見抜くためにはまず、「番組独自でたくさん取材をしているか」ということに気をつけるといいでしょう。

画像タイトル Graphs / PIXTA

これは本当はニュース番組や情報バラエティ番組にも言えることですが、「できるだけ多くの事実を視聴者に伝えたい」という思いで制作されている良い番組は、自分たちでできるだけたくさんロケをしたり、番組独自の取材をしています。番組のリポーターやスタッフが出てくるVTRが多い番組は、そうでない番組より信頼性が高いと言っていいと思います。

ただし、そのVTRの内容が「あまりに一方的に物事を決めつけようとしている感じ」だったり、「やたらと感情に訴えて、不必要に感動させようとしている感じ」だったりする場合は気をつけましょう。視聴者をミスリードしてでも視聴率を取ろうとする姿勢で作られている番組かもしれません

画像タイトル

そしてもうひとつ、「どんな人をコメンテーターに起用しているか」を注意して見るのがいいと思います。傾向としては、タレントを多くコメンテーターに起用している番組はあまり事実を重視していません。専門家を多く起用している番組の方が良いと思います。

例えば新型コロナの問題でも、事実を重視する番組はできるだけ医師や学者などの専門家をコメンテーター として起用しようとします。そうすることによって、取材以外の部分で多くの事実や信頼できる分析を視聴者に伝えることができるからです。

しかし、ここで注意しなければならない点がひとつあります。たとえ専門家を呼んでいても、「本当にその分野に詳しい専門家なのか」ということに注意しなければなりません。例えば刑事事件の解説を、企業法務が専門の弁護士にお願いしている番組は、ちょっとおかしいですよね? これと同じようなことが起こりがちです。

お医者さんでも、「なんでも面白く説明してくれる、テレビ慣れした人」を起用している番組は要注意です。

特に新型コロナの問題では、現在各局で「専門家の奪い合い」になっています。これほどの非常時で、感染症の専門医はみんな多忙を極めている状況なのに、コロナに詳しくてかつテレビに出てくれる余裕があるお医者さんはさほど多くはありません

そんな中でも「様々な意見を持つ専門医を出来るだけ多くゲストとして呼ぼう」と努力している番組は信頼して良いのではないでしょうか。

 ●3:「ボード解説」が分かりやすい

ワイドショーはニュースに比べて速報性に劣ると先ほど書きましたが、ニュースに比べて優れた部分もあります。それは「物事をわかりやすく噛み砕いて説明すること」です。

報道記者などを中心にキャリアを積んだ人が多いニュース番組よりも、様々な番組の演出を手掛けてきたスタッフの割合が多いワイドショーは「それほどニュースに知識がない人にでもわかるように演出の工夫をする」ことに長けたスタッフが多いです。

画像タイトル Fast&Slow / PIXTA

特に最近はスタジオトークの割合が増えてきているので、ボードやパネルを使ってスタジオでニュースを解説するコーナーが重要になってきていて、その出来不出来が番組の成績の良し悪しを決めていると言っても過言ではありません。「わかりやすいボード」を作るセンスがあるスタッフは各局で取り合いになっています。

ですから、「ボードがわかりやすい」そして「そのボードをうまく説明することができるキャスターがいる」番組を選ぶのが良い、ということができると思います。

●まとめ:あくまでもたくさんある情報源の1つとして

以上、30年近くニュースとワイドショーの制作に関わってきた私なりの「ワイドショーの見方と選び方」をご紹介してまいりましたが、参考になりましたでしょうか?

いずれにしろ情報過多の現在、最終的に求められているのは「できるだけたくさんの情報源にあたり、鵜呑みにせず自分で判断する姿勢」だと私は思います。

ここのところ何かと批判されることが多いテレビのワイドショーですが、ここに書かせていただいたことなどを参考にご自身の目で厳しく選別し、ワイドショーに踊らされるのではなく、様々な情報源のひとつとして「便利に利用する」姿勢で活用していただければ、テレビマンの端くれとしてとても嬉しいです。

【鎮目博道(しずめ・ひろみち)氏プロフィール】
プロデューサー・演出・ライター。上智大学非常勤講師。92年テレビ朝日入社。社会部記者の後、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサー。ABEMAサービス立ち上げにも参画。2019年独立。近著に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)

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