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わいせつ教員を「一生排除」は憲法違反? 「職業選択の自由」、どう考えるべきか
萩生田光一文部科学相

わいせつ教員を「一生排除」は憲法違反? 「職業選択の自由」、どう考えるべきか

教員による子どもへの性暴力が社会問題となる中、萩生田光一文部科学相は9月29日の記者会見で、「個人的には、わいせつ教員を教壇に戻さないという方向を目指したい」と述べ、法改正の検討を進めていることを明らかにした。

法改正に向けては、教員免許を再取得できないようにすることだけでなく、教員免許を再取得できるまでの欠格期間を延長することなども検討しているという。

一方で、萩生田文科相は、「本当に更生して(教育現場に)戻りたいという人の職業選択の自由をあらかじめ拒むことが憲法上できるのかという大きな課題もある」と指摘。採用する側の裁量と責任で採用できる形を残すことも選択肢として考えられると話した。

犯罪歴があるとなれない仕事はある。たとえば、禁錮以上の刑に処せられた者は弁護士になれない。ただし、刑が終わってから10年経過など一定の条件を満たせば、資格制限は解除される。性犯罪を犯したことをもって恒久的に資格が剥奪されるまでには至っていない。

教員と弁護士では職務内容・職場環境等に違いがあるとはいえ、性犯罪を犯した教員に対しては一切免許の再取得を認めないという制限を設けることは、法的に問題ないのだろうか。再婚禁止期間訴訟で戦後10例目の違憲判決(2015年)を勝ち取った作花知志弁護士に憲法の観点から見解を聞いた。

●「子どもや保護者の人権」と「教員の人権」とが衝突する難しい問題

ーー性犯罪を犯した教員の免許再取得には厳しい声が多く上がっています。

教員は子どもと継続的かつ長時間接する職業ですので、子どもや保護者の立場から不安の声が上がることは当然だと思います。その声には十分に配慮する必要があります。

しかし一方で、教員にも人権があり、今回検討されているような規制は職業選択の自由に対する制限に当たります。したがって、「人権に対する制限は必要最小限度でなければならない」という観点から考える必要があります。

子どもや保護者の人権と教員の人権とが衝突する問題であり、その調和点を見出すのはとても難しいことです。

ただ、弁護士である私の意見としては、人権制限は必要最小限度でなければならないという原則を変えずに子どもや保護者の人権に十分に配慮する形を目指し、社会としては、性犯罪についての医学的知識を皆で共有し、犯罪・再犯防止や更生支援に比重を置いた調和点を模索するべきだと考えています。

ーー「性犯罪を犯した者は、教員免許の再取得を一切認めない」ことが検討されているようです。

私が以前性犯罪の刑事事件を担当した際に、性犯罪を専門的に研究されている医師の方から、「性犯罪を繰り返す人は、その人自身が、幼児期に性的虐待を受けていることが多い」というお話を伺ったことがあります。

性犯罪(性暴力)を行った人の原因の究明と与えるべき社会的ケアについて、私達はまだ十分な制度を構築できていないように思います。

そうであれば、制度構築の推進などを十分に行わず、性犯罪(性暴力)を行った人の人権制限だけを重くすることは、「人権に対する制限が必要最小限度である」とはいえないのではかと思います。

●「一律に資格回復自体を制限することは必要最小限度とは言い難いのでは」

ーー性犯罪者については、「再犯率の高さ」が指摘されることがあります。

再犯率が高いと評価された場合であっても、再犯を行っていない人がいるわけです。再犯を行う人がいるからといって、再犯を行う可能性がない人の人権を制限してよいことにはならないと思います。

ーー萩生田文科相は会見で、「(欠格事由があるものの、時間の経過等で資格が回復する)弁護士や医師は依頼する側が選ぶことができるが、教員については保護者や子供が選ぶことは基本的にできないので、アプローチが変わり得る」旨を述べていました。

弁護士や医師は依頼者が選べるから、という点はありますが、全ての案件がそうではないですし、依頼者が必ずそのような情報を調べてから弁護士や医師に会うわけではないはずですので、その指摘はやはり問題の一面にすぎないように思います。

性犯罪を行った教員についても、一定期間後における免許の再取得を認めた上で、仮に問題行動が行われた場合には職務停止や免許停止等の対応が速やかにされるなど、事後的なチェックを行うことが可能であるのならば、一律全面的に資格回復自体を制限することはやはり必要最小限度の人権制限ではないように思います。

ーー教員免許を再取得できるまでの欠格期間を延長するという選択肢もあるようです。

欠格期間の長さは、やはり1人1人の行った行為との間で均衡している必要があります。仮に再取得までの期間を長くする場合であっても、裁量により教員の道が開かれていることが必要でしょう。

ーーイギリスでは、一定年齢以下の子どもと接触する仕事では、犯罪歴のチェックを行う公的機関を通した証明書の発行が義務づけられているようです。

イギリスのような証明書の発行は、プライバシー権の問題との関係がありますし、その発行自体が職業選択の自由を制限する原因となってしまうおそれがあります。

選択肢の一つではあるでしょうが、やはり導入についてはやむにやまれないような最終的なものと考えるべきだと思います。

●「一律制限するとしても、裁量で採用できる選択肢を閉ざすべきでない」

ーー萩生田文科相の発言には、この問題について容易には決断できない難しさがにじんでいるような印象を受けました。

この問題はとても難しいです。私自身としては、職業選択の自由という人権が制限される問題である以上、個人の事情を最大限考慮して、その人が行ったことと、その人が受ける人権制限とが均衡を保つ方法を社会として探求するべきだと思います。

教員免許の再取得を可能とするか、仮に可能とする場合でも欠格期間をどの程度にするべきか、という一律の人権制限は必要最小限度でなければなりません。欠格となった人の行為と課される制限との間で、均衡が保たれているのかを検討することが必要です。

さらに、仮に一律の人権制限がされる場合であっても、個人の尊厳と職業選択の自由の保障に鑑みて、採用側の裁量で教員として採用できる選択肢を設けることが必要だと思います。

ーー復帰の道を閉ざさないとして、復帰後の対応も課題となりそうです。

教員に復帰した人の心のケアの問題もあると思います。「更生するための医療機関などが十分にない」という指摘があり、それを社会としてどう整備すべきかを模索する必要があります。

個人の職業選択の自由が保障されながら、社会として再犯を防ぐための手当てを行うための更生機関の構築や、そこに法律家や医師などの専門家が関わることが、今後はより重視されるべきだと思います。

プロフィール

作花 知志
作花 知志(さっか ともし)弁護士 作花法律事務所
岡山弁護士会、日弁連国際人権問題委員会、国際人権法学会、日本航空宇宙学会などに所属。

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