大阪・岸和田市の公立小学校で、教育実習生の大学生が「新型コロナウイルスの検査で陽性だった」と申し出て、実習先の小学校が臨時休校した。ところが、あとから、大学生の"うそ"だったことがわかり、市教育委員会は法的措置を検討している。
市教育委員会によると、大学生は8月31日から、市立八木南小学校で教育実習をしていた。9月7日昼ごろ、学校に「新型コロナの検査で陽性だった」と申し出た。学校側はすぐに児童を下校させて、感染予防のため、9月8日〜10日まで臨時休校にすることを決めた。
ところが、保健所と対応を協議していたところ、大学生が検査を受けていないことが発覚して、7日夜にあらためて事情を聞いたところ「うそだった」と認めたという。「早く教育実習を終えたかった」と話したそうだ。
市教育委員会は、弁護士ドットコムニュースの取材に「どういう法的責任があるのか、どこまで責任をとらせるべきか、大学生ということも踏まえて検討している」とした。はたして、どんな法的責任が考えられるのか。伊藤諭弁護士に聞いた。
●偽計業務妨害罪に問われる可能性
――どんな法的責任が考えられる?
おそらく軽い気持ちでサボる口実としてついてしまったうそが、思わぬかたちで大ごとになってしまったんでしょうね。この大学生の責任としては、刑事責任、民事責任、大学内部での責任が考えられます。
――刑事責任は?
刑事責任としては、偽計業務妨害罪が考えられます。この大学生が、自分が「新型コロナ検査で陽性だった」とうそをつけば、小学校側は、本来不要な消毒作業であったり、休校措置だったりといった対応を求められます。本来の業務を妨害されることは、多少なりとも認識したであろうと思われます。
実際に、航空機で「俺、陽性だけど」といって偽計業務妨害罪で逮捕されたケースや、家電量販店で「俺コロナだよ」と言ったことで実刑判決になったという報道もあります。
――民事上の責任はどういうものか?
小学校側がどのような請求をするかは、小学校(教育委員会)側が決めることになりますので、あくまで可能性の問題としてご理解ください。まず、大学生本人に対する請求がありえます。
この大学生がついたうそは不法行為ですから、それによって生じた損害について損害賠償請求することが可能です。ただし、少しでも関連する損害であれば何でも請求できるわけではなく、いわゆる相当因果関係が認められる限度に限られます。
たとえば、直接的生じた消毒費用などは相当因果関係があると言えるでしょうが、休校措置に伴って子どもが学校に行けなくなり、親もそれに伴って休業を余儀なくされたことによる損害については、かなり因果関係が薄くなると思われます。
●大学内部でも処分される可能性がある
――ほかには?
教育委員会が大学に対して債務不履行責任を追及することも考えられます。
通常、教育委員会や学校と大学との間で、教育実習の実施を委託する契約をしており、それに基づいて教育実習を実施しております。大学としては、派遣する実習学生が派遣先である学校に対して損害を与えないよう監督や指導をする義務を負っていると考えられます。そうした義務を怠って、学校に対して損害を与えた場合は、債務不履行責任として損害賠償義務を負うことは十分考えられます。
――大学内部での処分は?
今回のケースでは大学名はわかりませんが、おそらくどの大学でも学則や学生に対する懲罰規程が存在するはずです。当然、それにしたがって大学内部で、訓告、停学、退学などの懲戒処分がなされる可能性があります。