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2020年06月06日 09時15分

中国から「アイヌ」商標出願、法的に問題ないの?

中国から「アイヌ」商標出願、法的に問題ないの?
画像はイメージです

中国広東省の個人が「AINU」(アイヌ)を日本で商標出願していると報じられている。

特許庁の検索サイト「J-PlatPat」によると、ことし3月28日に出願されて、ステータスは「審査待ち」となっている。

特許庁は、弁護士ドットコムニュースの取材に「商標法に基づいて適切に審査する」とコメントした。はたして、今回のケースはどうなるのか。岩永利彦弁護士に聞いた。

●外国の人でも「商標登録」できる

――そもそも外国の人でも商標出願は可能なのだろうか?

もちろん可能です。逆に、日本の会社や個人が、中国にさまざまな商標登録を出願して、問題なく登録されています。

この点については、いわゆる『工業所有権の保護に関するパリ条約』(パリ条約)という国際条約に規定があります。少し読みにくいですが、以下のとおりです。

「第2条 同盟国の国民に対する内国民待遇等

(1)各同盟国の国民は、工業所有権の保護に関し、この条約で特に定める権利を害されることなく、他のすべての同盟国において、当該他の同盟国の法令が内国民に対し現在与えており又は将来与えることがある利益を享受する。すなわち、同盟国の国民は、内国民に課される条件及び手続に従う限り、内国民と同一の保護を受け、かつ、自己の権利の侵害に対し内国民と同一の法律上の救済を与えられる。

(2)もつとも、各同盟国の国民が工業所有権を亨有するためには、保護が請求される国に住所又は営業所を有することが条件とされることはない」

これは、「内国民待遇の原則」といって、要するに、外国人や在外者の差別を禁止しているものです。日本は古くから『パリ条約』の加盟国であり、中国も1994年に加盟しました。

ただし、遠い外国にいる在外者からの手続きでは、連絡がつきにくかったり、料金を払わなかったりなど、弊害も考えられるため、特別の代理人である商標管理人によらなければ、出願手続きができないことになっています(商標法77条2項)。

さて、今回のケースでは、日本国内の代理人(弁理士)に依頼しているようですし、その辺の問題はまったくありません。

●「AINU」でも問題ない

――「AINU」(アイヌ)のような名詞でも問題ないのか?

登録が可能かどうかは、一般的に2つのハードルがあります。

1つは、商標法3条の識別性のハードルで、もう1つが登録できない商標にあたらないかという商標法4条のハードルです。小難しそうですが、常識の範囲で理解できるものです。

まず、識別性とは、たとえば自動車のメーカーが、自動車株式会社と名乗る場合を考えてみるとわかると思います。商標は、自他商品等の識別標識と呼ばれていますから、自動車メーカーが、我社は『自動車』であるとした場合、何のことやらさっぱりわからなくなります。

それでは、ほかの会社とは識別できません。人名そのままや「こんにちは」など、よく使われる言葉もこの類です。

4条のほうは、先に同様の商標がある場合や、社会的相当性を欠いたり、非道徳的だったりなど、公序良俗に違反する場合などに登録を認めては、取引業界に混乱をきたすので、そのような類型の商標は登録できないとしたものです。

さて、「AINU」(アイヌ)のような名詞であっても、過去、「アイヌ カムイの力」という商標が、第3類の『シャンプー、ヘアートリートメント、化粧品、せっけん類』という指定商品で登録されています(第5662890号)。この商標権者は大阪の化学会社のようです。このほかにも「アイヌ」の入った登録商標はあるようです。

また、同じような民族名を表す名詞では、「熊襲 クマソ」という商標が、第32類の「焼酎、洋酒、果実酒、中国酒、薬味酒」の指定商品で登録されてもいます(第5933977号)。この商標権者は鹿児島の酒造会社のようです。

ですので、『AINU』(アイヌ)のような名詞でも、十分登録は可能と思います。

●在外者を理由に登録できないのであれば「差別」にほかならない

――今回のケースにあてはめると?

不測の事態などが起こらなければ、登録されるだろうと思っています。上述の2つのハードルの観点を検討します。

今回のケースでは、『AINU』(アイヌ)の商標で、指定商品は第9類の「携帯電話機用ケース、スマートフォン用保護ケース、タブレット型コンピュータ専用保護ケース・・・」などですから(商標公開2020-034136参照)、識別性はあり、3条のハードルはクリアできるのではないかと思います。

また、「AINU」や「アイヌ」の入った登録や出願は、過去存在するようですが(第5662890号もそれの例です)、今回と同じ第9類での登録や出願はないようです。また、公序良俗違反(商標法4条1項7号)とまでいえないと考えます。そうすると、この4条のハードルもクリアできるのではないかと思います。

ということですので、通常とおりの忖度なしであれば、十分、登録可能であると考えます。

――共同通信によると、批判の声もあがっている

たしかに中国からの「アイヌ」の出願を不快に感じる人もいると思います。実は、私もその1人です。

しかし、これまで「アイヌ」の入った商標が登録された実績もあります。在外者などを理由として登録できないというのであれば、外国人や在外者の差別にほかなりません。

昨今、コロナのためか、不寛容さが表出した悲劇が日本でも諸外国でも相次いでいます。本当に必要ならば、商標法の改正などの立法措置を講じるべきでしょうが、今はその段階にないとも思います。商標における「大津事件」(1891年、訪日中のロシア皇太子が警察官に斬りつけられた事件。政府の干渉をはねのけて、大審院長が司法権の独立が守ったとされている)として、個人的に注目していきたいと思います。

取材協力弁護士

岩永 利彦弁護士
ネット等のIT系・ソフトウエアやモノ作り系の技術法務、知的財産権の問題に詳しい。メーカーでのエンジニア、法務・知財部での弁理士を経て、弁護士登録した理系弁護士。著書「知財実務のセオリー 増補版」及び「エンジニア・知財担当者のための 特許の取り方・守り方・活かし方 (Business Law Handbook)」好評発売中。

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