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ひきこもり「自立支援」かたる業者に賠償命令 「恐怖心は一生残る」原告女性はPTSDに
引き出し屋訴訟の判決後に会見する原告女性(2019年12月26日/弁護士ドットコム撮影

ひきこもり「自立支援」かたる業者に賠償命令 「恐怖心は一生残る」原告女性はPTSDに

ひきこもりの人の自立支援をかたる業者、いわゆる「引き出し屋」によって、自宅から強制的に連れ出され、暴行などの被害にあったとして、関東地方の女性(30代)とその母親が東京都内の業者に対して契約不履行や慰謝料など計1727万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は12月26日、業者に対して約505万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

女性は母親とのいさかいがきっかけで、2015年9月、自立支援をうたう業者が運営する寮に無理やり入所させられた。約3カ月の入所中、殴る蹴るなどの暴行を受けたほか、現金や携帯電話も奪われて自由がなかったという。また母親は、社会復帰や職業訓練支援を受けられるという名目で、570万円の契約金を支払っていた。

判決は、施設の実態が「自立支援」とはかけ離れていたことは債務不履行にあたるとし、自宅からの連れ出しや施設での行動制限についても違法性を認めた。家族が支払った契約金570万円のうち450万円の返還を命じた。一方で、女性が求めた約1000万円の慰謝料のうち、認められたのは弁護士費用を含め55万円だけだった。

入所施設との間で発生するトラブルは引きも切らず、脱走や提訴が相次いでいる。ひきこもりが社会問題化するなか、今回の判決が同種事案に与える影響は小さくなさそうだ。

●原告女性「同じ境遇の人の勇気になれば」

原告の関東在住30代女性は、判決後に司法記者クラブで会見して「同じように無理やり施設に連れて行かれ、声を上げられない方の勇気になればと思う」と話した。

女性は当時、マンションの一室で一人暮らしをしながら小説の執筆やアルバイトをしていた。ひきこもりではなかったものの、ケンカした母親が悩んだ末に施設と契約締結してしまった。

その結果、同意のないまま部屋の内鍵を壊して侵入してきた施設の代表や職員らによって寮(アパート)に連れていかれた。2015年9月からおよそ3カ月間、自力で逃げ出すまで劣悪な環境での生活をしいられたと主張している。

●代理人は「踏み込んだ判決」と評価

原告代理人の望月宣武弁護士は、本人の同意なき連れ去りは違法であると認められた点を評価。判決では、家族や親族が施設と契約締結しても、施設側は連れ去りの前に支援対象者である本人からの情報収集が必要とした。

また、女性は父親の名義で契約されたマンションでひとり暮らをしていたが、居住実態がある以上、管理権は女性にあり、父母の承諾があっても、侵入は女性のマンションの管理権の侵害だと認められた。

望月弁護士は「家族と一緒に住んでいたとしても、部屋への侵入は本人のプライバシー権侵害になりうる」と指摘した。

一方で、女性本人に対する慰謝料は低額におさえられた。密室の出来事だったため証拠に乏しいことが理由だ。

「違法行為の立証責任は原告にあるが、(今回のような事案では)録画もなく、立証は困難。連れ去り後に暴行を受けたため、証拠も残らない」(望月弁護士)と、悔しさもにじませた。

●女性はPTSDに…「恐怖心は一生残る」

女性は今もPTSDで治療中だといい、「(引き出し行為の)恐怖心は一生残ることはわかってもらいたい」と話した。

「写真や動画をとられたり、無理やり『笑って』とか『ピースして』と脅された。ひきこもりの人を自立支援させる行為とは真逆。病気じゃない人を病気にして、働けなくさせてしまうと言いたい」と訴えた。

望月弁護士は、今回の判決について「本人の同意がなければ、親が子どもをお荷物扱いして、社会に出すのは認められないことを示した」ものだと指摘。会見では、ひきこもりの子どもと親を救う抜本的な対策が必要だと強調した。

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