朱肉やハンコ台がなくても気軽に使えることから根強い人気を誇る「インク浸透印」。公的な書類などに捺印する場合、使用していいものかどうか悩む人もいるようだ。
弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも、離婚届や契約書にインク浸透印で捺印してしまっても大丈夫なのか、質問が数多く寄せられている。
「インク浸透印」「実印」「認め印」など、はんこの種類や名称はさまざまだが、法的に扱いは異なるのか。山岡嗣也弁護士に聞いた。
●契約の成否には影響しないが、合意の存在が争われた場合に違いが
「実印は、住民登録をしている市町村に、登録している印鑑を指します。実印とその他の印鑑の間には、明確な違いがあります」
山岡弁護士はこのように述べる。それぞれどのような違いがあるのか。
「不動産登記手続関係の書類は、実印を押印しなければ、法務局にて受理されません。また、離婚届等を市役所に提出する書類も、インク浸透印では、受理されません。このように印鑑を指定されていることがあります」
契約書にインク浸透印で押印しても、契約は成立しないのだろうか。
「契約書に押印されたものが、実印か認め印かインク浸透印であるかは契約の成否に影響するものではありません。
もっと言えば、押印がなくても、契約当事者が合意していたのであれば、大半の契約は成立します」
では、どの種類で押印しても扱いは同じということだろうか。
「実印で捺印された契約書、認め印で捺印された契約書、インク浸透印で捺印された契約書は、契約当事者が『自分は契約なんかしていない』と言い出し、合意の存在を争ってきた場合に違ってきます。
実印が他人と共用されることはないでしょうから、実印で捺印された契約書は、『契約当事者本人が押印した』と容易に推定され、当事者が合意の存在を立証しやすくなります。
これに対し、契約書に捺印されたものが社会に多数出回っているインク浸透印によるもので、また契約者の名前もワープロで打ち出されたようなものであれば、実際に本人が押印したものか否か、契約書だけからは判別できなくなり、合意の存在の立証が困難になる場面も生じます。
この意味で、実印にて押印してある契約書は、後々、トラブルになる可能性が少ないと言え、信用度が高いと評価できるでしょう」
<訂正>当初、インク浸透印を総称して「シャチハタ」と表現していましたが、特定企業の登録商標と関連しているため、「インク浸透印」と改めました。