早ければ、2017年から性犯罪が厳罰化される見通しだ。痴漢や盗撮などの扱いは変わらないものの、強姦罪が懲役「3年」以上から「5年」以上になるなど、刑法が改正される可能性が高く、ネットでは「ようやくか」と歓迎の声が上がっている。
一方で見落とされがちなのが、「再犯防止」の議論だ。厳罰化になっても、加害者はいずれ社会復帰する。適切な対応をしなければ、新たな被害が出ないとも限らない。
性犯罪問題にくわしい林大悟弁護士は次のように語る。
「厳罰化はあってしかるべきですが、ゴールではありません。刑務所に長く入れるだけなら、『応報』や『抑止力』の点では効果があっても、『再犯防止』にはつながりません。被害が深刻だからこそ、被害者を作らないよう、加害者(再犯者)をなくす要素も欠かせないのです」
では、どんな対策が必要なのだろうか。
●「性依存」の性犯罪者には治療が必要
林弁護士は「加害者をなくしたい」という思いから、「クレプトマニア(窃盗症)」や盗撮・痴漢など「依存症」になっている犯罪者の更生を支援している。弁護を引き受けるだけでなく、医療機関などと連携し、治療につなげているのが特徴だ。
「性犯罪者の中には、依存症を伴っている人が一定数います。社会にはほとんど理解されていませんが、要するに『病気』です。たとえば、盗撮や痴漢の場合だと、最初は理性で始めるのですが、なかなか捕まらない。次第にスリルが忘れられなくなって、条件反射的にやってしまう。『分かっちゃいるけど、止められない』状態になってしまうのです」
依存という意味では、飲酒や喫煙と同じ仕組みだ。もちろん、性犯罪という行為自体は擁護できないが、治療せず、そのままにしておくのは社会だけなく、本人にとっても不幸を招く。
「依存症は本人の自覚が薄いのが特徴です。刑務所に長く入り、『もう二度としない』と思って出てきても、特定のシチュエーションに置かれると『ついやってしまう』ということがあり得る。これが厳罰化だけでは、再犯を防げない理由です」
性依存症は、林弁護士が担当するような盗撮・痴漢犯に多いそうだが、厳罰化の対象になる強姦罪や強制わいせつ罪の該当者にも少なからず含まれているという。
●「強姦罪」でもプログラムを受けないことがある
では、どのような再犯防止の取り組みがあるのだろうか。
刑務所では2006年から、性犯罪者向けの再犯防止プログラムが導入されている。ベースになっているのは、集団でテキストを持ち寄って、被害者の気持ちを考えたり、話し合いの中で性についての歪んだ考えを正したりする「認知行動療法」と呼ばれる手法だ。
法務省が2012年に行った調査によると、プログラムの受講者は受けなかった人に比べ、再犯率が約7ポイント低かった。しかし、林弁護士は「一定の効果はあるものの、受講できるのは一部の受刑者だけです」と不備を指摘する。
弁護士ドットコムニュースが法務省に尋ねたところ、2014年度にプログラムの受講を開始したのは492人。指導者の数が足りず、受講者には限りがあるという。受講に当たっては、
強姦や強制わいせつのような犯罪の「凶悪性」よりも、再犯リスクの高さが優先されるという。「強姦1回と痴漢10回を比べたら、痴漢の方がプログラムの対象になりやすいかな、という実感があります」(法務省担当者)
●「示談」で不起訴になった場合はどうする?
再犯防止という点では、性犯罪の起訴率の低さも考える必要がある。検察統計年報によると、2015年の「強姦罪」の起訴率は35.3%、「強制わいせつ罪」は43.4%と半分以上が不起訴になっている。示談の成立などにより、問題のある人物が罰則や更生プログラムを受けないまま、社会生活を続けている場合もあるのだ。
林弁護士は、「性的な問題を起こす人には『女性は嫌がっていても、実は喜んでいる』など、少なからず認知に歪みがあります」と言う。そのため、「プログラムを受けないまま出所した場合や、示談で釈放された場合でも、プログラムを受けさせられる機関を作っても良いかもしれません。そのためにも指導者の増員が求められます」と提言する。
また、民間の医療機関の認知度を上げることも重要だ。林弁護士が多く担当している、盗撮・痴漢事件の場合、示談や罰金刑で済むことが多く、よほどの前科がない限り、刑務所に行くことは少ない。入っても数ヶ月程度だ。
「常習性があっても、刑期が短すぎてプログラムを受けられない場合もある。再犯防止プログラムの対象を広げたり、民間の医療機関につなげることが重要です」
なお、民間の医療機関では、前述の「認知行動療法」のほかに、性欲を減退させる「ホルモン剤治療」などの治療が受けられるところもある。林弁護士は、「ホルモン治療と認知行動療法を組み合わせると効果が大きい。ただ、刑務所などの刑事施設では、ホルモン治療ができないので、その点についても対応が必要です」と話していた。