学校法人「森友学園」への国有地売却に絡み財務省が決裁資料を改ざんした問題で、前国税庁長官の佐川宣寿氏が3月27日、衆参両院で証人喚問されることになったと報じられている。佐川氏は改ざん時に理財局長だった。
毎日新聞などによると、麻生太郎副総理兼財務相は、佐川氏が「交渉記録は破棄した」などと国会で答弁したことに合わせるため改ざんされたと説明するが、野党は「官僚の判断だけで改ざんはできない」と反発している。
改ざんの動機や経緯、政治家の関与の有無などについて質問が相次ぐとみられるが、証人喚問では偽証罪に問われるポイントはどこにあるのか。元裁判官の田沢剛弁護士に聞いた。
●虚偽の陳述とは・・・
「刑法169条は『法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3月以上10年以下の懲役に処する』として偽証罪を定めており、国会での証言については『議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(議院証言法)』という法律で同様の規定が設けられています(6条1項)。いずれも国家の審判作用ないしは立法作用等が保護法益となっています」
田沢弁護士はこのように指摘する。では「虚偽の陳述をした」ということについて、例えば以下の2つの観点で、どう考えられるのか。
(1)記憶にしたがって証言しているが、証言が客観的な事実に反している場合でも「偽証罪」に問われる可能性はあるのか(犯罪の現場でAさんを目撃したのに、Bさんだと勘違いして「Bさんを目撃しました」と証言したようなケース)
(2)客観的な事実に合致する証言をしているが、それが記憶に反した証言であった場合はどうか(犯罪の現場で目撃した人物が誰かわからなかったのに、Bさんを陥れようとして「Bさんを目撃しました」と証言したところ、実際にBさんが犯人だったようなケース)
「『虚偽の陳述をした』の意味は、陳述の内容たる事実が客観的真実に反することであると説く『客観説』と、証人の記憶に反することであるとする『主観説』の対立があります。
客観説によると、証人が偽証の意思で陳述したとしても、それが真実に合致している限り、国家の作用が害される恐れはないとして、偽証罪は成立しないことになるわけです。
しかし、そもそも証人とは、自ら体験した事実を記憶のままに述べることが求められているのであって、記憶に反することを述べること自体が国家の作用を害する恐れがあるといえます。そのため、主観説が通説的立場です」
●記憶に反する陳述は偽証罪に問われる
「そして、この主観説による限り、記憶に反する陳述が、たまたま客観的真実に合致していたとしても、偽証罪が成立することになります。以上より、(1)については偽証罪不成立、(2)については偽証罪成立といった結論になります。
今般、証人喚問が行われる佐川氏が偽証罪に問われるか否かは、客観的真実と食い違う陳述をしたか否かが問題なのではなく、あくまでも記憶に反する陳述をしたか否かが重要なポイントとなります」
●証言拒否は許される
では、「刑事訴追の恐れがあるためお答えは差し控えさせていただきます」という答弁を佐川氏が繰り返す場合もありえるが、証人喚問をして真相解明に役立てるという点では望ましくないといえる。このような答弁は許されるのだろうか。
「憲法38条1項は、『何人も、自己に不利益な供述を強要されない』として、いわゆる自己負罪拒否の特権を定めています。歴史上、自白は証拠の王様として刑事裁判における決定的な証拠として扱われ、それがゆえに自白の偏重と拷問等による自白強要が行われて、結果として多くの冤罪を招き、重大な人権侵害を引き起こしてきましたので、その反省のもとに生まれた規定です。
刑事事件の被疑者や被告人に黙秘権が定められているのもこの規定を受けてのことですし、刑事訴訟法や議院証言法等で、証人につき、刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒否できると定めているのもその一環です。言い換えれば、憲法38条1項の自己負罪拒否の特権を、証人の場合について確認的に定めたものということになります」