アメリカで別姓のまま法律婚したにもかかわらず、日本の戸籍に婚姻が記載されないのは、立法の不備があるなどとして、映画監督の想田和弘さんと舞踏家で映画プロデューサーの柏木規与子さん夫妻が、国を相手取り、合計20万円の損害賠償を求めた訴訟が4月21日、東京地裁で判決を迎える。
いわゆる選択的夫婦別姓をめぐっては現在、制度導入を求める訴訟が複数進行している。この訴訟もそのひとつだが、第二次夫婦別姓訴訟の弁護団によって「戦略的」に取り組まれてきた。
判決によっては、日本で初めて裁判所が「夫婦別姓」を認めるケースになる可能性もあることから、注目が集まっている。判決前に、その争点を整理する。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
●国は「婚姻は成立していない」と反論
訴状などによると、想田さんと柏木さんは、米ニューヨーク州で1997年、夫婦別姓のまま法律婚した。海外で結婚する場合、婚姻届を提出しなくても、現地の法律に基づいておこなわれれば、国内でも婚姻は成立している(法の適用に関する通則法24条2項)。
しかし、国内では、夫婦同姓でないと夫婦の戸籍が作成されないため、二人は法律婚した夫婦であるにも関わらず、戸籍上で婚姻関係を公証できない状態にある。そのため、法律上の不利益を被っているなどとして、2018年6月、国を提訴した。
想田さんらが求めているのは、次の点だ。
・戸籍上、婚姻関係の証明が受けられる地位にあることの確認
・国作成の証明書によって婚姻関係の証明を受けられる地位にあることの確認
・一人につき10万円の国家賠償
国はこれらに対し、想田さんらが夫婦を称する氏(姓)を定めていないため、夫婦同姓を義務付けた民法750条の要件を満たしておらず、「婚姻関係の証明を受ける地位にあるとはいえない」などと反論。そもそも婚姻が成立していないとして、争っている。
弁護団の竹下博將弁護士によると、結婚するにあたり、同姓である必要がある場合は、日本人カップルが国内で結婚するケースだ。しかし、日本人が外国人と結婚するとき、国内でも海外でも同性である必要はない。
今回の訴訟では、国外で日本人カップルが結婚した場合に、同姓である必要があるかどうかの判断を求めている(写真の図の赤い部分)。
今回の裁判の争点(2021年4月14日/東京・霞が関で弁護士ドットコム撮影)
●3つの争点とは?
提訴後、複雑な法律論が続いていたが、1月に結審した際、争点は主に3点に絞られている。
1)通則法が適用されることを前提に、ニューヨーク州の方式に従い婚姻した想田さんと柏木さんについて、婚姻が成立しているか。
2)想田さんと柏木さんの婚姻が成立しているとして、戸籍に記載して、証明を受けることは可能か。そして、そのような証明を受ける地位にあることについて、この訴訟で確認判決を求めることはできるのか。
3)そのような確認判決を求めることができないとしても、結婚を保護しようとする憲法24条・女性差別撤廃条約16条2項にもとづき、婚姻について証明書の作成・交付ができるか。
また、婚姻が成立しているにもかかわらず、戸籍への記載がされず、証明手段が整備されていないことについて、憲法24条や国賠法1条1項に違反するのか。
●海外で別姓婚した夫婦の判例は?
判決直前に東京・霞が関の司法記者クラブで会見した竹下弁護士は、次のように語った。
「想田さんたちだけでなく、海外で活躍されている日本人の研究者が、自分の名前でのキャリアを大切にして、外国で別姓のまま結婚しているなどのケースがあるとも聞いています」
また、竹下弁護士によると、東京地裁で2012年9月、海外で別姓のまま結婚した日本人夫婦が、配偶者が亡くなったのちに相続人として認めてほしいと争った裁判の判決があったという。
「この裁判では、国は当事者ではありませんでしたが、結婚は有効だという判断がされています。
今回の判決で、もしも請求が棄却されたとしても、外国で結婚しても夫婦が同じ氏でなくても夫婦だと認められれば、実質的な勝訴だと思われます」
注目の判決は4月21日午後3時から、東京地裁で言い渡される。