日本有数のメガバンク、みずほ銀行を窮地に追い込んだ暴力団への融資問題。そこでは経営責任をになう取締役たちが実態を知りながら、2年間も放置したことが重大な焦点となっている。同行が金融庁に提出した業務改善計画には、再発防止策として「社外取締役」の設置が盛り込まれ、元東京高検検事長の甲斐中辰夫氏が11月1日に就任した。
同行が切り札として期待を込める「社外取締役」とは……。ぼんやりとは分かっていても、ただの「取締役」とどう違うのか、どんな人が選ばれるのかなど、あらためて聞かれると、うまく説明できない人も多いのではないだろうか。
「社外取締役」のイロハと、不祥事対策としてそれを置く意味を、企業法務にくわしい大和弘幸弁護士に聞いた。
●社外取締役のキモは「部外者」であること
「社外取締役とは、過去と現在を通じて、その会社や子会社の代表取締役、業務執行取締役、従業員になったことのない取締役をいいます。
ある会社に就職して、係長→課長→部長から常務取締役へと出世した人は、社外取締役ではないということになります。上記の要件を満たす人であればだれでも、社外取締役になることは可能です」
大和弁護士はこう説明する。
「社外取締役が設置される目的は、(1)経営のアドバイスを受けたい、(2)経営に『外の風』を入れ刷新したい、(3)専門家の意見を経営に反映させたいなど、さまざまです。
各社はその目的にふさわしい社外取締役を選任していて、みずほ銀行以外のメガバンクでは、公認会計士や弁護士、元損保会社役員、元コンサルティング会社パートナーなどが選任されているようです」
●しがらみのない「監督」役
みずほ銀行のように、不祥事対策としての社外取締役には、どんな役割が期待されているのだろうか。
「不祥事の再発防止の観点からいえば、社外取締役を置くことで、他の取締役の業務執行の監督や経営・責任の透明化が期待できるというメリットがあります」
なぜ、わざわざ「社外の人間」が必要とされているのだろうか?
「法律上は、取締役会、つまり、取締役全員が代表取締役などの業務執行を監督することになっています。しかし、社内の出世街道を上がってきた『社内』取締役にとって、代表取締役社長は上司ですから、その意向には逆らえないという雰囲気があるわけです。
また、現場から報告されてきた不祥事案件を、上司である社長に上申しにくいということも言えるでしょう。他方で、上司・部下の関係にない『社外』取締役であれば、代表者の不正・不当な行為の指摘や、不祥事のすみやかな報告も十分期待できるでしょう」
●社外取締役の意見を受け止める土壌が必要
大和弁護士は「形式的に社外取締役を設置するだけではダメだ」と釘を刺したうえで、次のように締めくくっていた。
「どのような目的でどのような人物を社外取締役に選任するのか、そして、社外取締役の意見を他の取締役が真摯に受け止めるという新たな企業文化の土壌を構築できるのか。何よりも重要なのは、そうした実質的な企業統治(ガバナンス)改革です」