東電や関電など、電力9社の株主総会が6月下旬、一斉に開かれた。2011年3月の福島第一原発の事故以降、電力各社の総会では、会社側が推進する原発政策の転換を求める「株主提案」が数多く提出されている。
報道によると、今年は北陸電力を除く8社で計72件の提案があり、関電と東電は過去最多のそれぞれ29件、15件だった。脱原発や廃炉関連の提案は72件中32件にのぼったが、すべて否決されたという。
この「株主提案」、必ずしも大株主でなくてもできるようだが、具体的にはどれぐらいの株を持っていれば出せるのだろうか。提案の中身はどんなものでもいいのだろうか。さらに、もし可決されたら、企業はどんな提案でも受け入れなければならないのだろうか。会社法にくわしい大和弘幸弁護士に聞いた。
●株主は会社に「議題」と「議案」を提出できる
「株主提案」といっても何をどう提案すればいいのだろうか。たとえば「会社は原発を廃止しろ」と書いて出せばいいのか。
「そう単純なものではありません。会社法では、株主は、株主総会で特定の『議題』や具体的な『議案』を提案する、と規定されています」
「議題」と「議案」とは字面が似ていてややこしい。このふたつはどう違うのだろう?
「『議題』というのは『取締役選任の件』や『定款変更の件』など総会で討議をする対象のことですね。議案の方は、『議題』に対する具体案、たとえば『A氏を取締役とする』とか『定款に原子力発電所の廃止という章を新設する』というのがそれに該当します」
なるほど、電力会社に原子力発電所の廃止を求める提案をしたいときには、「定款変更の件」という「議題」や「定款に原子力発電所の廃止という章を新設する」という「議案」が必要になるわけだ。それでは、「議題」は、どのような株主が提案できるのだろうか?
「株式を上場している会社では,議決権300個以上か、総株主の議決権の1%を、6か月間引き続き保有している株主に認められます。1議決権=100株である東電の場合、3万株以上ということになります」
これは一人の株主でなくても、同じ議題を提案したい株主が集まって規定の株数になればOKだ。一方、「議案」提案の方は、「株数の要件はなく1議決権でも可能」ということだ。ただし、次のような条件がつく。
「株主からでも会社からでもいいのですが、議案に対応する『議題』が提案されている必要があります。今年の東電の総会の場合だと、会社は『取締役選任の件』という『議題』しか提案していません。原発を廃止する定款変更を求めるためには,300議決権以上保有する株主が『定款変更の件』という『議題』を提案する必要があります」
●「株主提案」の内容に制限はない
それでは株主が提案できる議題や議案の内容に制限はないのか? 原発の廃止などは、会社の利益に真っ向から反することになりそうだが・・・
「内容は総会の決議事項であればよく、法令や定款に違反するものでなければ、原則として制約はありません。昨年、大手証券持株会社の総会で、社名を『野菜ホールディングス』にするとか、取締役の社内での呼称を『クリスタル役』にするなんていう面白い定款変更の株主提案もありました」
そんな風変わりな提案でも、会社の利益に反する提案でも、議案が総会で決議されたら、会社は、その結果を受け入れざるを得ないという。これは電力会社でも同じだ。だが、定款変更を可決するためには、出席株主の議決権の3分の2の賛成が必要だ。定款は、会社の憲法といってよい重要なルールだから、変更するハードルは高いのだ。