ピコ太郎さんの大ヒット曲で知られる「PPAP」や「ペンパイナッポーアッポーペン」といった言葉が、大阪府の無関係の企業・ベストライセンス社によって商標出願されていた件は、世間の大きな注目をあつめた。同社は過去にも、既存の団体や人物に関連した商標を大量に出願しており、一部の間で問題視されていた。
報道によると、同社は「ビジネス」のために出願をおこなっているという。一般に、自分で使用しない言葉を先に商標登録して、他者に対してライセンス料の支払いや権利売買を持ちかけることは、「商標ブローカー」「トロールビジネス」と呼ばれている。こうした行為を防ぐ方法はないのだろうか。知的財産にくわしい岩永利彦弁護士に聞いた。
●日本でもまだまだ起きている
「たとえば、外国である程度有名な商標について、日本であまり知られていないことから、無関係な第三者が出願(悪意の出願)をするというパターンがよく知られています。ときどき、中国でこうしたことが起きていると報道されていますが、国内でも同じようなことがまだまだあります。
また、ごく最近も、トヨタ自動車の燃料電池車『ミライ』の商標が、先に出願した人との間で係争になりました。
トヨタ自動車が、自動車のロゴ『MIRAI』を商標登録したのですが(第5753538号)、その登録について、今回問題になった大阪府の無関係の企業が登録異議を申し立てた事件です。審決取消訴訟まで争われています。
この事件で、大阪府の企業は、本家のトヨタ自動車の出願よりも2カ月以上早い出願をしたと主張しましたが、結論として、特許庁でも知財高裁でも、トヨタ自動車の登録が維持されています」
●「出願そのもの」を防ぐ方法はない
赤の他人による商標出願を防ぐ方法はあるのだろうか。
「まず、無関係の人による商標出願そのものを防ぐ方法は、今のところありません。なぜなら、無関係かどうか審査してみないとわからないことだからです。
つぎに、今回のケースで問題になったように、手数料を支払わないで出願だけするということを防ぐ制度もありません。もし仮に、(1)出願と同時にかならず手数料の支払いをしなければいけない、(2)そうしないと即却下する、という制度になった場合、何かの手違いで手数料を支払えなかった人を救えないからです。
今のところ、出願時に手数料の支払いのない場合、特許庁から通常1カ月程度の期限を定めて、不備を補正するよう指令が下されるということになっています(手続補正指令)。それに応じない場合、期限から2カ月後以降に出願が却下されることになっています。
現状では、却下までかなりの時間がかかっていますので、その時間を短縮することくらいはできるかもしれません」
●「自助努力できることがまだある」
現行の制度を改善すべきではないか。
「改善する必要はあるかもしれませんが、何かを変更すると、それに伴う弊害のほうが大きくなると思います(例:手違いで手数料を納付できなかった人を救えないなど)。
現状でも、手数料を支払わないと、却下処分になります。また、仮に手数料が支払われて審査段階に進んで、その後登録されても『公序良俗違反』などで、無効となる可能性が高いです。
トヨタ自動車のケースでは、油断をしていたのかもしれませんが、『MIRAI』の商標出願が遅すぎたと思います(新車のプレス発表と同日に出願したようです)。
したがって、商標が決まったら、すぐに商標登録の出願をするようにして、『商標ブローカー』『トロールビジネス』にスキを見せないようにすることで、ずいぶん対策になると思います。したがって、制度の改善に期待するよりも、自助努力でなんとかできる範囲がまだまだ大きいように思います」