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徳川「葵紋」そっくりの商標登録に当主側が異議申し立て…認められる可能性は?
徳川ミュージアムの商標(左)とイベント会社の商標(特許庁の公開情報より)

徳川「葵紋」そっくりの商標登録に当主側が異議申し立て…認められる可能性は?

水戸徳川家の「葵紋」によく似た商標が、イベント会社によって登録されたとして、水戸徳川家15代当主が理事長を務める公益財団法人が、特許庁に対して異議を申し立てていることが11月上旬に各メディアで報じられ、話題となった。

特許庁の情報などによると、伝統芸能の上演などを行う水戸市のイベント会社が、問題となっている商標を2015年に出願し、同年12月に商標登録が認められた。水戸徳川家の15代当主、徳川斉正氏が理事長を務める公益財団法人「徳川ミュージアム」は、この商標について、ミュージアムがすでに商標登録している家紋と似ているとして2016年3月に異議を申し立てた。

徳川ミュージアムの異議申し立てが認められる可能性はあるのか。商標の問題に詳しい岩永利彦弁護士に聞いた。

●家紋は、商標の「不登録事由」に含まれていない

そもそも、家紋を商標として登録することはできるのか。

「原則として可能です。商標の不登録事由(商標登録できないもの)は商標法4条1項各号に挙げられています。たとえば、菊花紋章(1号)や国の紋章(2号)です。

4条1項の不登録事由は限定列挙と考えられています。つまり、不登録事由に定められていないものは商標登録できるということです。そして、家紋が不登録事由に列挙されていないので、登録可能ということになります。

これは、家紋というものが終局的には私的なものであり、公的なものではない、ということに由来するのだと思います」

商標登録に対する異議申し立ては、どんな制度なのか。

「第三者の申し立てをトリガーとして、いったん商標登録した処分が適切だったのかどうかを、特許庁自ら再度審査する制度です。

特許庁の能力も万能ではありませんし、同業他社の方が商売の実情などをよく知っていたりします。そういう方々から提出された資料を元に、再度審査を行うわけです」

●商標の「類似性」どう判断するのか?

今回のケースで、異議申し立てが認められる可能性はあるのか。

「ポイントを簡単に言えば、登録された商標や商標の使いみちが『類似しているかどうか』を判断します。他人が既に登録している商標と類似したものを登録することはできないので(商標法4条1項11号、先願に係る他人の登録商標)、類似していると特許庁が判断すれば異議申立てが認められることになります。

公益財団法人徳川ミュージアムの登録商標のひとつは、本件のイベント会社の登録商標と、『指定役務』(商標を使用または使用を予定しているサービス)について同じ区分を指定しており(類似商品・役務審査基準41類)、類似していると考えられます。

また、商標自体は少なくとも類似だと考えられます(同一と言っても過言ではないでしょう)。

そのため、本件では商標法4条1項11号(先願に係る他人の登録商標)に該当し、異議申し立てが認められる可能性は高いと思います。

このように、本件では異議申し立てが認められる可能性が高いと思いますが、これは三つ葉葵の紋章が徳川に縁のある者にだけ認められるからだとか、公共の利益に反するからという理由ではないと思います。

徳川に縁のある者の出願の方が、単に先だったからという理由だけでしょう。本件は、問題となった商標が古くからの家紋ということで、多少ニュースにはなりましたが、法的には単なるごく普通でありふれた商標の問題に過ぎません」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

岩永 利彦
岩永 利彦(いわなが としひこ)弁護士 岩永総合法律事務所
ネット等のIT系・ソフトウエアやモノ作り系の技術法務、知的財産権の問題に詳しい。メーカーでのエンジニア、法務・知財部での弁理士を経て、弁護士登録した理系弁護士。著書「知財実務のセオリー 増補版」及び「エンジニア・知財担当者のための 特許の取り方・守り方・活かし方 (Business Law Handbook)」好評発売中。

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