「いつやるの?」と聞かれたら「今でしょ!」と答える。今年の流行語大賞はこれで決まりかと言われるほど話題になっているこのフレーズ。もともとは大学受験予備校「東進ハイスクール」のCMで使われていた決め台詞だ。
現代文講師の林修さんが黒板の前で「今でしょ!」と呼びかける。シンプルなメッセージと林さんの「ドヤ顔」のインパクトが受けた。続いて出演したトヨタのCMでも「じゃあ、いつ買うの? 今でしょ!」がドはまり。波に乗った林さんはその後、ロッテのCMや数々のバラエティ番組にも出演することになっている。
「今でしょ!」というフレーズで勝負をかける営業マンも増殖しているとかいないとか・・・・。さて、今や個人の「持ちネタ」の次元を超えてしまった感はあるが、そもそも林さんに無断でこのフレーズを使用することに問題はないのだろうか。「今でしょ!」に著作権はないのだろうか? 著作権に詳しい桑野雄一郎弁護士に聞いた。
●極端に短いフレーズは「著作物」とは言えない
「『今でしょ!』のような短いフレーズは『著作物』とはいえませんので、著作権もありません。その前に、『いつやるか?』というフレーズをつけた場合でも同様です」
このように桑野弁護士はズバリ言う。なぜ「今でしょ!」は「著作物」といえないのだろうか。
「著作物といえるための要件の一つに『創作性』がありますが、このように極めて短いフレーズについて創作性を認めることは難しいといえます。とても印象的でキャッチーな使われ方がされているのは事実ですが、言葉自体は特に目新しさのない、ありふれたものだからです。
また、このように短くて、ありふれた言葉に著作権が成立してしまうと、うっかりその言葉を使ってしまったら著作権侵害ということになりかねません。これでは言葉を使った表現に対する制約が大きくなりすぎて、著作権法が目的としている文化の発展を妨げることになってしまいます」
たしかに、「今でしょ!」が気軽に使えなくなってしまったら、ふだんの会話も息苦しいものになってしまいそうだ。
ただ、もう少し長い、俳句や短歌については、一般的に著作物性が認められている。また、桑野弁護士によると、「ボク安心 ママの膝よりチャイルドシート」という交通標語について、著作物だとした裁判例もあるのだという。「キャッチコピーなどは、著作物性が認められる場合と否定される場合があると言われています」と桑野弁護士は指摘する。
●短いフレーズでも「著作物性」が認められる場合がある
では、どのくらいの長さがあれば「著作物」と認めてもらえるのだろうか?
「林修さんのように『●字でしょう!』とシンプルに答えたいところですが、なかなかそうもいきません」
つまり、単純に字数で決められるというものでもないのだ。
「短いフレーズについては、(1)使われる言葉自体はありふれているが、その使われ方がユニークだという場合と、(2)使われる言葉自体にある程度オリジナリティが認められる場合があるといえます。そして、(1)の場合は著作物性が否定され、(2)の場合は著作物性が認められるということになります」
短いフレーズが「著作物」として認められる条件について、桑野弁護士はこのように説明する。そのうえで、次のようにアドバイスしている。
「すなわち、『今でしょ!』のような極めて短いフレーズは、そのまま使っても問題はありません。ただ、もう少し長いフレーズの場合には、そのまま使うことには慎重になったほうがよいかもしれません。もっとも、広告宣伝目的で作られたキャッチコピーなどは、使い方によっては、文句を言われる可能性はないかもしれませんが・・・」
「今でしょ!」を多用している営業マンも、これで一安心というところだろうか。「今でしょ!」でブレイク中の林さんとしても、たくさんの人が使えば使うほど「流行語大賞」に近づくのだから、「みなさん、どんどん使ってください」と思っているのかもしれない。