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2014年02月20日 16時04分

新作脚本を暴露されたタランティーノ監督がブチギレ!もし日本で起きたら訴訟になる?

新作脚本を暴露されたタランティーノ監督がブチギレ!もし日本で起きたら訴訟になる?
リークされた情報は、ネットを介してすぐに広まってしまう

『キル・ビル』や『パルプ・フィクション』などで知られる、アメリカ映画の巨匠クエンティン・タランティーノ監督の次回作の「脚本」が、ネットで無断公開されて、大騒動になっている。

1月下旬に脚本が暴露されたことを受け、タランティーノ監督は映画化の見送りを決定。著作権侵害で100万ドル(約1億円)以上の損害をこうむったとして、脚本がアップロードされていたファイル共有サイトと、記事でファイルへのリンクを紹介した米国のゴシップ紹介サイト「ゴーカー・ドットコム」に対し、損害賠償を求める裁判を起こしたという。

ゴーカー・ドットコムはその後、裁判についての記事を掲載したが、そのなかで「ゴーカーは脚本のネット流出には関与していない」「脚本へのリンクを載せたのは、それがニュースだったからだ」と反論している。

とんでもない事態だが、もし日本で同様の事件が起こった場合、制作者はどんな法的手段をとれるのだろうか。エンターテイメント関係の法律問題にくわしい唐津真美弁護士に聞いた。

●「送信可能化権」や「公表権」の侵害になる

「日本でも、監督やプロデューサーが、俳優やそのマネージャーに、制作予定の映画の脚本を見せて出演交渉をする場合は多いです。同じような事態が起きる可能性はあるでしょうね」

唐津弁護士はこのように話す。そんな場合、日本でも、タランティーノ監督と同じ内容の訴訟を起こすことは可能なのだろうか?

「(1)未公開脚本を受け取った人が無断で第三者に渡す→(2)第三者がネットにアップ→(3)掲示板やファイル共有サイトを通じて配信→(4)リンクを掲載する記事も登場、というケースが日本で起きたとしましょう。

このケースでは、脚本がネットにアップされた段階で、脚本の『著作権(送信可能化権)』と、『公表権(著作物を公表するかどうかや、公表の形式を決定できる著作者固有の権利)』を、侵害することになります」

著作権侵害があれば、損害賠償請求も可能なのだろうか?

「そうですね。権利者はまず、脚本を無断アップロードした人に対して、ファイルの削除と著作権・著作者人格権侵害に照らして損害賠償を請求できるでしょう。

また、脚本提供にあたり秘密保持契約を結ぶケースは少ないと思いますが、状況から見て第三者に渡さないことが合意されているとみなされる場合には、脚本を横流しした人に対しても、不法行為に基づく損害賠償が請求できそうです。

とはいえ、リークの経緯を特定するのは容易ではありません。今回も脚本をネットにアップロードした人はまだ特定されていないようで、タランティーノ監督が訴えたのはファイル共有サイトと、リンクを紹介したメディアの運営者ですね」

●ファイル共有サイトやメディアを訴えることもできる

唐津弁護士はこう指摘する。日本でも同じように、ファイル共有サイトやメディアを訴えられるのだろうか?

「日本でも、プロバイダ責任制限法に基づいて同様の訴訟ができるでしょう。

権利者から一定の根拠を示した請求があり、アップされている脚本が著作権・著作者人格権を侵害していると知ることができたにも関わらず、サイト運営者が放置した場合、公開差止や損害賠償を請求できる可能性が高いと思われます。

また、近時の裁判例に照らすと、著作権侵害サイトにリンクを貼ったメディアについても、権利者から請求を受け侵害を認識してもリンクを削除しなければ、不法行為による損害賠償請求が認められる可能性があります」

ここまでの点については、日米で大きな違いはなさそうだ。だが、唐津弁護士によると、損害賠償の「額」は、日米でかなりの違いが生じる可能性があるという。なぜだろうか。

「アメリカでは、著作権侵害に対して、具体的に損害がいくらと立証できなくても、一定額の『法定賠償』を請求できる制度や懲罰的損害賠償の制度があります。

一方、日本では原則として『請求する側が立証できた損害』しか認定されません。侵害をした人がそれで利益をあげていた場合、その額を損害とみなすことができる等の規定もありますが、今回のようなケースでは使うことは難しそうです。

脚本のリークと制作中止の因果関係の程度も問題になるでしょうし、映画が成功するかどうかは予測困難ですから、『映画が制作された場合の利益』が損害と認定される可能性は低いでしょう」

●俳優と「秘密保持契約」を結ぶのが望ましいが・・・

日本で認められるのは、どんな損害なのだろうか?

「脚本のリークと映画制作中止の間に相当因果関係が認められたとしても、日本では、損害として認定されるのは、原則として、スタジオのキャンセル料など制作中止から直接発生する費用にとどまると考えられます。多くても、これに加えて映画制作に向けて実際に支出された費用の一部が損害として認定される程度ではないでしょうか。

著作者人格権である『公表権』の侵害については、精神的損害に対する慰謝料請求が認められる可能性が高いですが、慰謝料として認められる金額は数十万円から百万円程度の場合が多く、高額の慰謝料が認められる可能性は低いと思われます。

未公開脚本がリークされるリスクを抑えるためには、脚本を見せる前に秘密保持契約を結び、違反に対する損害賠償額の規定も入れることが望ましいのでしょう」

唐津弁護士はこのように指摘しながらも、「実際には、大物俳優に向かってそんな契約へのサインを迫るのは簡単な話ではなく、非常に悩ましい問題だと思います」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

唐津 真美弁護士
弁護士・ニューヨーク州弁護士。主な取扱業務はアート・メディア・エンターテイメント業界の企業法務全般。特に著作権等の知的財産権及び国内外の契約交渉に関するアドバイス多数。第一東京弁護士会・法教育委員会委員長、東京簡易裁判所・司法委員。
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